18匹目  勝利の味わい


standerd.jpg夏休みが目前に迫っています。フウは今年もひとり日本に一時帰国。彼が旅立つ前にベルのチャンピオン祝賀パーティをする事にしました。7月の末になるとみんなバカンスでいなくなり始めるし、8月1日からは私たちもイギリスにバカンスです。日にちを設定し、早速モンセに連絡、彼女からも犬友に声を掛けてくれる様に頼みます。私もベジェスは勿論、マノロ一家、そしてかすみちゃん夫妻に声を掛けます。実はかすみちゃんを通して、ご主人のジョセップ・マリアにクラブの会計をやってくれるよう頼んであったのです。そして何とか彼の承諾を得て、その件はベジェス達にも説明済み。これで会長、セクレタリー、会計が決まり、このパーティで顔合わせをしいよいよ三役揃い踏み、の段取りまでやっと漕ぎ付けたのでした。先週にサルゥと待ち合わせをして、カタルーニャ法務省に問い合わせに行き、必要な書類一式の説明を受け、その書類を提出するにあたっては、この三役のサインが必要なのでした。夏休みに入る前に何とかしたい、という私の焦りも悠久の時間感覚で生きるスペインでは、すべてお得意の「マニャーナ」という一言で、軽ーく、いなされてしまうのでした。この「マニャーナ」という単語ほど、スペインに住む外国人にとって恐ろしいものはありません。決して本来の「明日」という意味など持たせられた事などないのではないかと思う程の、怪盗二十面相的単語。それは時に「永遠」にまで通じる、恐ろしく間口の深い(だからと言って懐が深い訳ではない)単語。このニュアンスを掴み切れない間は、スペインの空気を吸い、この国で息をしているとは言えないのではないかと、腕組みをしながら考えてしまう事しばしば。頭はもう少し理論的な空気を求めて常に酸欠状態に近く、太刀打ちする為には、取り敢えず約束らしきものの後には、必ず「マニャーナ」でもくっ付けておけばいいと思ってるんだな、と言う感じかな? 本気にする相手なら用心しなくてはなりません。もちろん今はこういう間違い(勘違い?) は少なくなりましたが、これはひとえに用心深くなったせい。だって「明日にはね」と言われた配管工を朝から何処にも出かけられず待ち続けて、夕方になっても来ず、結局電話をすると、「今日はいけない。明日」と言われ続けたら、誰だって用心の一つや二つは身に付くものです。日にち、時間を事前に確認してもその通り来ることは「驚異」とすら言われる国なのですから。

 そんなスペインでやっとビセンスがスペイン・ダルの「スタンダード規定」を纏め上げたというので、早速それを清書します。これがスペインにおけるダルという犬種を守る砦となる事を願って。

STANDARD


一般的外見
スポットがある事が特徴、バランスが良く、力強く、筋肉質で活動的。 外見的にはシンメトリーで、粗暴さや愚鈍さはない。

特性
大変な耐久力と素晴らしい速度を持つ、品行良性な馬車の伴走犬。

性格 
社交的で友好的、内気でも用心深くもなく、神経質や攻撃的といった事からは程遠い。

頭部と頭蓋骨 
通常の外観は、頭蓋骨は平坦で、耳との間は適度な幅があり、耳の前部は程よい境界がある。ストップはくっきりと分けられている。皺は全くない。鼻面は長く、力強く、決して尖ってはおらず、口唇はぴったりとしており、下顎の噛み合わせは閉じている。黒のスポット種の場合、鼻は常に黒い。茶色のスポット種では栗色をしている。

瞳 
適度に離れており、中サイズ、知的そうにきらきらと輝く丸い瞳。黒のスポット種では色は暗く、茶色のスポット種では琥珀色。目の縁は黒のスポット種では完璧な黒が、茶のスポット種では栗色が望ましい。


位置はかなり高く、サイズは中くらい、付け根部はかなり幅広く、先端部へ向かって段階的に丸みを帯びている。構造は薄く、頭部にぴったりくっ付いている。

口 
下顎は強く完璧で、サイズは普通で完全に噛み切る。例えば、上の歯は前に出る事によって下の歯と閉じ、下顎の噛み合わせはぴったりしている。


優雅に長く、弓形、すっきりと頭部に向かって狭まっている。顎の弛みはない。

前部
肩は斜めに形作られており、くっきりと筋肉質。前足の肘はボディに向かって閉じている。前の脚は足元へ向かって完全に真っ直ぐで、しっかりした丸い骨、足首はすっきりとしなやか。

ボディ
胸部はさほど幅広ではないが、奥行きがあり、大変な肺活量を有する。肋骨はしなやかで、内側に入り込んでおり、背中のラインは力強く、背肉はくっきりと強靭、筋肉質で弓形にすっきりしている。

後部
丸みを帯び、太腿へと綺麗に繋がっており、くっきりと筋肉質。後ろ膝関節は美しくカーブを描き、膝はとてもくっきりしている。


丸く、コンパクトに、指は猫のように美しく丸みを帯び、逞しく、肉球はしなやか。爪は黒のスポット種は黒、もしくは白、茶のスポット種は栗色、もしくは白とバリエーションがある。

尻尾
長さは大体後ろ膝に届くくらい。付け根部分は力強く、先端に向かって徐々に細くなっており、位置は低くも高くもなく、粗野な感じでなく、上に向かってすっきりとした曲線を描き、決して巻き込んでいない。スポットがあるのが好ましい。

動き
非常に自由闊達な動き。柔らかく力強く、大股のリズミカルな動き。後ろから見ると足は平行に動き、後脚は前脚と一緒になって走る。 小股でヨチヨチした走り方は正しい動きではない。

毛質 
短く、硬く、密集しており、すべすべと光沢がある。

色 
地の色は純白。黒のスポット種は密な黒、茶は腎臓色―栗色。大きさは2~5cm。スポットは可能な限り離れている方が良い。手足のスポットは体のより小さいだろう。頭部のパッチは望ましくない。日焼けしたスポットは成犬には望ましくない。

サイズ 
とにかく全体のバランスが最も重要である。理想的な高さは、
   オス   58~61cm
   メス   55~59cm

欠点 
前述の記載から外れているものは、全て欠点と見なされ、そして欠点とされた点においては、正確にどの程度なのかを真剣に受け止めなくてはならない。

特記
オスは外見上通常の2つの睾丸を持ち、陰嚢は完璧に垂れている事。


 あぁ、これでやっと「クラブ規約」「指導要綱」「スタンダード規定」と、スペイン・ダル・クラブの基本となるものが出来上がった訳です。これを基に会員を集め、いよいよクラブ立ち上げです。清書し終わったものを並べて見ると、何だか感無量なのでした。

fiesta2.jpg さぁ、いよいよ今日はパーティです。昨日ベルはシャンプーをして、白さが際立っています。2時開始の予定ですが、ベジェスが手伝いを兼ねて先に来てくれます。彼らは今日のために、彼ら特製の‘サングリア’を、なんと10リットルも作ってきてくれました。凍らせてあったというので冷たくて、パーティにはぴったり。やがて続々と犬友がお祝いに来てくれました。まずはモンセとアニータ。エバとパンタ。マノロとマリッサ、エネコ。ラウラとクリスチャン、コレッチャさんと奥さん、かすみちゃんとジョセップ・マリア、ベジェス一家の4人、我が家の3人、そうそう犬友ではないけど友人のエレナと娘のクララ。それからアデとちょうどアメリカ留学から帰国中の友人チータ、何故かパブロは来ず、アデの両親の別荘で子供の世話をしているとか。決して片割れだけという事などなかったのにと、この時に感じた違和感がやがて形となって現れようとは…。
 総勢24名。既にバカンスで来れない人もいましたが、まずまずの盛況。まずフウが挨拶をします。
「今日はベルの為に来ていただいて、ありがとうございます」とだけですが、恥ずかしそうなフウを突付いて無事完了。続いてこういうのに慣れているコレッチャさんが乾杯の音頭を自然ととってくれて、パーティ開始です。たっぷりの食事とたっぷりの飲み物、それから溢れ返るおしゃべり。みんなの間でベルがあっちへ行ったりこっちへ行ったり、嬉しくて嬉しくて。モンセ代表が犬友からのプレゼントをベルに渡してくれます。籠の中には骨やクッキー、おもちゃの盛り合わせ、そしてベルのお友達の写真を寄せ集めてラウラが作ってくれたというお祝いのカード、黄金のカップと「ERES LA MEJOR(君が一番)」という書き込みが、みんなのおめでとうの言葉とサインがしてあります。かすみちゃん達からはダル型写真立てが。ビセンスとマニュエルも嬉しそうです。彼らの血統を正しく伝えることができ、今日という晴れの日を迎えられたのは、何よりの事でした。

fiesta.jpg 最初はせっせと腹ごなしに夢中だったみんなも、それぞれ満足顔でやっと椅子に座っておしゃべりは更に加速。テラスにはいつものメンバーに、今回初めてお会いするコレチャ夫人も加わって、それぞれの犬談義。
「犬なんてとんでもない、って思っていたのに、家に来たクゥニーを見た途端、もう可愛くて可愛くて。でも、大変だったわ。携帯からテレビのリモコン、靴、手当たり次第にやられたのよ。昼間一人で留守番させておくと、家に帰ってきた時、玄関のドアを開けるのが恐怖だったわね。まぁ、ほんとにベルは誰にでも撫でられるのね。クゥニーは怖がりで駄目なのよ。家族以外には触らせないの」
「トゥインキーは犬収容所で貰ってきたの、ティビダボのね。まぁ、あそこの有様ったら酷いものよ。私たちを見た途端、尻尾を振って懐いてくれて、すぐさま救い出す事にしたの」
「オナはラッキーだったわよね。今はもう全然吠えないじゃない?」
「森に連れて行くようになってからは落ち着いたわね。相変わらず最後の15分は何処かに消えるけど、でも待ってれば戻ってくるしね。朝になるとベッドに上って来るのよ」
「あら、うちはベッドには許してないわ」と、コレチャ夫人。食事の時のお裾分けも無しだそう。
「うちなんか大変よ」と、エバが大きな目をくるくるさせて大騒ぎ。
「ルアーは最初からベッドに乗って寝るんだけど、カラとサンバは初めは足元にいて、明け方になるとベッドに上がってくるのよ。首のところには猫3匹でしょ。もうミイラ姿勢で固定されてぜーんぜん動けないわ」
 そうそう、エバのところは3匹目が来たんだった。犬3匹と猫3匹に挟まれて身動きできないエバとパンタを想像すると、思わず「ぷっ」 パンタが気弱そうに困った顔をして眠っているのまで思い浮かびそうです。犬友広場で知り合った皆なも、最近はほとんど広場へ行くことがないと言います。モンセとアニータは毎朝、森の反対側の短いコースに行っているようですし、夏は午後の散歩も日が長いから森へ出て行くそう。それでこのところオナはお腹のラインが随分とすっきりしたのね。トゥィンキーは朝は広場ですが、クリスチャンの出勤が早いので誰もいない時間帯だとか。コレッチャさんも遠出ではないけど森に行ってるし、このところ誰もブバには関わった事がないそう。
fiesta3.jpg「相変わらずだよ」と、唯一広場派のマノロが教えてくれます。
「相変わらずマルカしてるよ」という言葉に、みんなで非難ごうごう。
「あれは飼い主の問題だよ」と、クゥニーに怪我をさせられた事のあるコレッチャさん。
「ほら、ビバのこと、覚えてる? 口に咥えられて振り回されて」
「そうそう。もうテレサなんか真っ青になっちゃって大変だったわよね」
「僕なんか腕に噛み付かれたんだよ」と、パンタ。ホント、ブバを巡って色々ありました。でも、最初は私達のこと過剰反応と見てたでしょ、皆さん? 我が身に降りかかってやっと判るものなのよ、と言いはしませんが私と夫はあの頃のちょっと悔しい思いを思い出しました、まぁ今は懐かしくもあるけど。
 最後にベルの血統書の名前に敬意を表して、ジャスミンの花を飾ったケーキで締めくくりです。花泥棒をしてきてくれたのは我が夫。大きなアンダルシア・ジャスミンを爪楊枝に刺し、イチゴのケーキの上に飾ります。ベルは興奮しすぎたのかお昼寝中。2時から始まったパーティは喉が枯れるほどに話し続けて、ようやく6時くらいでぼちぼちお開きになりました。
「またチャンピオンになってくれよ、ベル。そうしたらまた美味しいパーティが楽しめるからな」と、コレッチャさん。

fiesta4.jpg さて、パーティの後は三役の打ち合わせです。ジョセップ・マリアはベルが本当にお気に入りで、ベルも彼がくると最大級の歓迎をします。笑うのです。笑う犬。これはダル特有ですが、笑う子と笑わない子がいます。たとえばベルはよく笑うし、姉妹のシニアも。でもジョーやドゥルスバはあまり笑わない。ディジーもまぁまぁ。笑いにも2タイプあって、ひとつは媚び笑い。特に怒られた後なんかは顔中くちゃくちゃにして、コビコビ笑いをします。そしてもうひとつは歓迎の笑い。自分を可愛がってくれる人に会った時なんか、本当に嬉しそうに腰をちょっと屈め気味にして、体全体をくねくね振りながら、笑うのです。今のところ、このベルの歓迎の笑いを受けるのは限られた人たちだけ。私たちは別として、ベジェス達とかすみちゃん達、重子さんやマノロ達、くらいかしら。それからやおら股間に突っ込みを入れるんですけども。
 さぁ、やっと三役が初顔合わせです。やっと。クラブの趣旨説明などをもう一度確認して、書類にサインを入れていきます。最も重要な書類はこれからまたタイプ打ちしなくてはなりませんが、渡されたモデル用紙の書き込まなくてはいけない事項をチェックし、最後に設立に賛同する人たちのサインが必要になります。これはコンタクトの多いベジェス達が集めるという事で決まり(不安ですけど)。何もかもが終わったのは9時になろうかという頃。ベルの散歩も残っているし、後日また三役集まって食事をしようという事にして、大急ぎで手締です。あぁ、どうにかここまで漕ぎ着けた…。
 夢だったチャンピオンへの道を無事に果たし、こんなにも多くの犬友にお祝いしてもらったベル。本当に幸せものです、ベルも私達も。

7月は大きな大会もなく、フウも日本へと旅立ってしまい、なんだか少し気抜けした感じで過ぎていきます。森はいつものように乾燥しきって、ベルが走る度に地面には綿埃のように細かな赤茶けた雲が立ちます。雨が欲しい…。またカダケスの方で山火事が発生したというニュースが流れています。エンストした車をスタートさせようとした時に発生したスパークが火事の原因だそうです。火は竜の眼のように熾き火となってしぶとく大地を傷めつけています。この火事の3日程後に仕事でカダケスに行きましたが、黒焦げになったオリ-ブの樹は見る影もなく、松の木も高い梢に僅かに緑を残してはいますが、生き延びるかどうか。唯一コルク樫の木は幹の分厚い皮のおかげで、本体がやられる事は少ないらしく、一番再生力が強いようです。この火事のせいで観光客が避難し、外国人などは早々にバカンスを切り上げて帰った人も多いとか。毎年の事ながら山火事は地中海沿岸の悩みの種。

 さて、フウも帰ってきていよいよ私達のバカンスです。イギリスでのレンタカーはベジェス達が手配をしてくれて、お宿もみんなベジェスの犬友のお家にご厄介になります。その間ベルはマニュエルとサルゥが世話をしてくれるので安心です。旅行の度に犬をどうするかが犬友共通の悩みであって、無論ほかに家族が残っている場合はいいのですが、さもなくばどの犬のホテルを選ぶかが大きな問題です。
  幸い私たちは犬のホテルのお世話になる事は今のところありませんが、話に聞くと他の全ての事と同じく当たり外れが大きいので、様子を調べてからでないと危険です。友人の一人はバルセロナの大きなペットショップがやっているホテルに預けたのですが、帰ってきた犬はノイローゼ気味になっていて、毛の手入れもしてもらえずコペコペになっていたとか。大憤慨していました。逆にマノロの家のトビーがいつも預けられる所は郊外型なので、割に大きい庭があってプールもあるそうで、ケージもゆったり目だとか。少し庭に出してもらえるそうで、マノロ達は満足していると言っていました。
 我が家ではベルは親元で見てもらえますが、では親元のベジェス達はエキスポジションの為に全員が出かける時はどうするかと言うと、ベジェスの従兄弟夫婦がお泊りにきて面倒を見てくれるのです。庭が広いのでお散歩に連れ出してもらえなくても、まぁ数日間なら大丈夫というわけです。バカンスで出かけるのはビセンスとマニュエルは交互にしているようで、去年はマニュエル達がイギリスに行ったので、今年はビセンスの番という訳。親元がしっかりしているのと助かるのは、人間も犬も同じ? 旅行中ベルはすっかりお任せです。ただ心配なのはセロが来るのではないかという事。ベルは8ヶ月おきとセロとセロの間が割に長くてとても助かるのですが、それで行くと8月にセロになる予定なのです。ベジェスの所ではシニアが妊娠中、そして今ディジーがセロ中というので、これでベルのセロが始まるとちょいと厄介かも。しかし予定では19日からと私たちが帰ってきてからの筈なので、まぁ少し早まったとしても何とかマニュエルとサルゥに面倒はかけないで済むでしょう。

 8月1日、暑いバルセロナを旅立ち、ロンドン郊外の空港に降り立った途端、空に雲が流れ流れ空気は清涼、風が肌に冷たいイギリスの気候です。レンタカーは日本と同じく右ハンドル。どうぞ今回は事故なく無事に過ごせます様に。と、言うのも4年前、2週間のバカンスを遥々バルセロナからフランスはパリを経過して、ユーロトンネルを渡りイギリスへと旅した際、哀れ我が家の車は事故でおシャカとなってしまったのでした。それというのも大陸車の左ハンドルで島国イギリスの左側通行、これほど危険な事はなく、何が危険といって田舎道の対向車のない道ではふっといつもの習性が戻ってしまう訳で…。私は後遺症として軽い鞭打ちが残り、それがどうも今ごろになって出てきたらしく、疲れ、寝不足、長時間の移動…、これらが堪えるのでした。

maik.jpgそれにしてもイギリスの緑の豊かさは乾燥したバルセロナから来ると、目の奥にまで細かな霧となって染み渡って行く様です。どこまでも続く平和な田園風景。点在するどこか懐かしい面影を残す家々。色彩は花によって生み出されています、花によってのみと言える程に。ビセンスが運転してまずはバートン家に無事到着。フウは昨年のベルギー・ダル・クラブ大会で既に顔馴染、お酒の大好きなマイクと、ジャッキー夫人に初対面のご挨拶です。そして何よりもまず、ドゥルスバの親元だけあって、います3匹のダルが。年長のメスは思わず、「ベルに似てる!」と叫んでしまった、クレオ。ベルよりも面長な顔立ちですが、目元がすっと切り上がってなかなかの美形。この目元から‘クレオパトラ’ことクレオの名が付いたのだそう。そしてやはり額にスポットがあります。彼女の血統書名は、 “GAYFIELDO CHARMIAN”、イギリスのCACを2つ取っていて、後ひとつとればチャンピオンになれたのに、びっこを引くようになってしまい、残念ながら引退してしまったのだそう。ただ彼女は素晴らしい母親であり、チャーリィ・ブラウンという偉大なヨーロッパ・チャンピオンを生んでいます。このチャーリィ・ブラウンのオーナーが、ベルの恋人の親元であるオランダのモーガン家なのです。同じ系統のダルを愛する人たちは、こうして連綿と繋がって行くのですね。
 そしてクレオの娘、“ローレン(GAYFIELD SAUVIGNON)”。ローレン・バコールから来ているのだそう。こちらはマロン(イギリスではレバー)で、随分と小さい。初めて見たと言うビセンスも、
「珍しいな。彼らの所でこんな小さなダルが出るなんて」と、言っているくらい。
「ローレンは小さいけどバランスはいいんだ」と、マイク。彼らは3匹のダルを持っていますが、エキスポジションに出せるのはこの子だけ。チャンピオン犬チャーリィ・ブラウンの息子、“ヤーゴ(GWYNMOR IAGO)”と言うオスが1匹いるのですが、残念ながらエキスポジションには向かない、とマイクは判断しているそう。ヤーゴは4歳なのですがまだ子供みたい。とにかく懐っこくて可愛いのです。ですがリンクに立つと打って変わって元気がなくなり、十分に魅力が発揮できないんだそう。こちらはモーガン家(GWYNMOR)からお祖母ちゃん(クレオ)の家にやって来た訳ですね。

 イギリスの血統書では、最初に血統名、次にその犬の名前がきます。つまり苗字、名前、とくる訳ですが、これに引き取られていった先の血統書名を付け加えることも出来るのだそう。つまり、何処で生まれ誰に育てられたかまでが明記できる訳で、いかに血統を重んじるか理解できるように思います。そしてこの血統名は他人に譲渡も出来るのだそう。去年ベルギーで審査員だったブレンダ・スミス女史は、“DALLYVISTA”と言う有名な血統のブリーダーでしたが、ブリーダーとしてやって行くには歳を取り過ぎたというので、血統名を別な女性に譲ったそうです。それらの流れを全て把握していなくてはいけないのですから、本場イギリスのダル道はやはり奥が深い…。
 スペインではまず犬の名前、それから苗字が続きます。だからベルはGESAMI DE LA LLIBRA CASANOVA。この血統名は創設者一代限り。リブラ・カサノバの名前は残念ながらライムが継ぐ事は出来ません。ですからベルが始祖となる我が家の血統名の申請者は、少しでも長く続くようにと、あくまでもフウの名前にした訳です。

 さて、マイクのお家には今、朝の散歩中に保護したという捨て犬と思しき茶色の雑種ウィピィーがいて、これが大変なやんちゃ坊主。ウィペット種との雑種のようなのですが、やたら飛び回りあたり構わず噛むのです。これは歯の生え変わり期だからだと思うのですが、それにしても小形種の仔犬の歯は、ダルの仔犬のより数段細く薄く痛いので、あちこちで「いたた!」「アウチッ!」と言う叫びが上がります。ある真夜中、階下でガタガタッという物音がし何事かと思ったら、このウィピィーが開いていた家事室の窓から庭へ飛び降りた音だったのです。あまりのやんちゃに手を焼いたジャッキーは、
「貰い手を探す方がいいみたいね。ダルとはあまりに違いすぎて」と、溜息。イギリスの動物愛護精神は徹底していて、例えば“BDC”にも「WELFARE」、つまり福祉構成の担当員がいて、眼の辺りなどに大きなスポットが出てしまうパッチと呼ばれる問題を抱えるダルや、諸事情で飼えなくなったダルたちの引き取り手を探してくれたり、ダルの飼い方についての指導をしてくれます。それとは別に「DALMATIAN RESCUE  SERVICE」という組織もあって、今までに約2900匹のダルの養子縁組に取り組んだそうです。そこには「血統の秘密は守ります。私たちにとって大事なのは、本当に犬が必要かどうかだけ」とあります。血統を重視すると言う事は反面、そこからはみ出たもの、異端者に対し冷酷になる傾向もある、と言う事でしょうか。目の色が違う、パッチがあるといった何かしら重要な欠点が出てしまった由緒正しい家系のダル。由緒が正しいが故に処分される事だって十分考えられるのです。犬を本当に必要とする人の為に、オスとメスのブリーダー(ブリーダーというのは正式にはメスの持ち主、オスは種犬のオーナーという呼び別けがあります)の秘密を保持しつつ引き取り手を探そうという、ダル全体の幸福を考えようというサービスですが、これも全てボランティアで行われています。それにしても2900匹のダルが、もしかしたら処分されていたのかもしれないのだと思うと、血統重視の恐ろしさを感じざるを得ません。ですが、自分の身に置き換えて鑑みれば、やはり悩んでしまうのです。ベルの子供にそういった仔犬が出たら…。重い問題です。

 ‘BDC’ の本大会が近づいているので、委員を務めているマイクの家には夜になるとひっきりなしに電話がかかってきます。ジャッキーもかつては別なダルクラブの秘書を勤めていたそうですが、今はコンピューターに取って代わられた、と苦笑い。確かに事務手続きの労はぐんと少なくなったでしょうが、やはり今も連絡係として大忙しです。マイクは某ペットフード会社の地区顧問もしているそうで、名刺もダルの写真が入っていて本当にダル一色。今年は娘がGAYFIELDの後継ぎとして名前を登録してくれたそうで、大変な喜びよう。彼らの2人の子供は成人して家を出ていますが、2人ともジャッキーの最初の結婚で出来た子供で、マイクの実子ではないそうですが、幼い頃からマイクとジャッキーで育ててきた自分の子供だと、マイクは言います。その娘がダルの名門の名を継いでくれたのです、しかも今妊娠中のローレンの子供を1匹育て、これからダル道に励むとの事。GEYFIELDの名は少なくともまだ30年は続くと見て間違いなし? 今年は始めて海外からの参加が認められ、6ヶ月の血液検査の手続きを済ませたセルゥイン(ベルの婚約者)も出場するのです。美犬振りが楽しみです。オーナーのモーガン氏はインターネットで既にベルがスペイン・チャンピオンになったのを知っていた、と以前ビセンスが言ってましたっけ。私たちは一生懸命そのサイトを探したのですが見つけられずじまいでした。 この謎はずいぶん後になって判ったのですが、サラゴサ大会の審査員でベルを大いに気に入ってくださったHelge Lie氏が、ノルウェーに帰られてからも随分とベルのことを誉めてくださったそうで、ノルウェーといえばセルウィンの生まれ故郷、そこからダル仲間で話が伝わり、スペイン・ケンネルクラブのサイトをチェックしてみれば、マドリッド大会でチャンピオンの為の必修ポイントである本大会CACを獲得したのが判った、という事だったのです。

大会は4日の日曜、それまでシェークスピアの街やオックスフォードを観光します。花、花、花。何処へ行っても豊かな緑と溢れる色彩。時折カッと照りつける太陽、その直ぐ後にやって来る雲。目まぐるしい程に変わる雲の姿を眺めて見飽きません。周辺には運河があり、マイクの家の近くにも流れています。朝露に濡れた運河横の広大な広場に、マイクは毎朝ウォークマンに身を委ねつつ、3匹のダルを連れて行きます。広場はここも柔らかな緑に覆われていて、イギリスの犬たちには爪の手入れは欠かせません。固い大地で消耗する事がないからです。乾燥しているように思っていてもサン・クガットの森はやはりまだ柔らかい方らしく、切った事がないと言うベジェス家とは違ってベルも1ヶ月半位毎には、獣医に爪を切ってもらっているくらいなのですから。
「ね、肉球がすごく柔らかいんだ、気が付いた?」
「ほんと。全然痛くないわね」
「ね。猫みたいだよね。ベルのなんかメチャクチャ固いよ」と、フウと私はやんちゃなヤーゴに撫でろ攻撃をされても、そのあまりの気持ちの良さに思わず肉球を、モミモミ、モミモミ。スペインとはやはり大地の硬さが違うのですね。
 運河広場には他の犬たちも車で連れられてきますが、犬たちはとても静かで、他の犬を見たからといって吠え合う事もなく、黙々と飼い主と歩いています。何だかのどかな風景。すれ違う犬にそっと手を差し出すと、近寄ってきて匂い嗅ぎのあと行儀よくひと舐めしてくれたり。車で田舎道を走っていると、野原をぴょこぴょこ飛び跳ねるウサギをたくさん見かけます。さすがはピーター・ラビットの国、イギリスでは誰もウサギを食べないのだとか。
「マニュエルが作ってくれたパエジャ。あれが忘れられないなぁ。ウサギが入ってたんだよ、ウサギが!」と、未だに愉快な思い出にふけるマイク。スペインではウサギってかなりポピュラーな食材なんですけど。ウサギ狩りをするくらいだから、てっきりイギリス人も食べるのかと思っていた…。
「とーんでもない! あんな野蛮な行為、禁止すべきだね!」と憤慨するマイク。一部貴族のお楽しみだと、反発する動物愛護者は多いようです。鯨と違って食文化の伝統を守るのではないウサギ狩りが未だに容認されているのは、イギリスはやはり根底に貴族文化を良しとする考えが根強いという事なのでしょうか。
「それにしても今年はクラフト・ショーが延期になって残念だったね。日本人もたくさん来てたぜ。うちのダルを譲ってくれないか、金はたっぷり弾むと声を掛けられたよ」
「へぇー!」
「何人かに声を掛けてたみたいだけど。もちろん皆な断ってたよ。日本と韓国は危険過ぎる。間に入ってるブローカーがいるからな。誰かの所が騙されたって聞いたな。イギリス人男がやって来てあれこれうまい事を言うんだ、広い庭があるとか、何とかね。売った後でしばらくして様子を見に行ったら、出鱈目な住所だったらしいんだ。日本人に頼まれてやったらしいよ。韓国は吠えたら殺されるらしいし」と、本当に本当に、日本人と韓国人の評判は驚く程に悪いのでした。ビセンスが初めは私たちに売りたくないと思ったと言うのも無理からぬ話なのかも。
「僕たちだって同じだったんだよ。どうしてスペイン人なんかに譲ったんだ、あいつらの暮らしなんか貧しいし、ろくな飼い方をされないぞってクラブの皆から言われて、マイクとジャッキーが心配で見に来たんだ。でもほら、庭は広いわ、食い物は良いわで、すっかり安心したマイクが、クラブのみんなに写真を見せまくって、やっと誤解が解けたんだよ。その時さ、マニュエルの作ったウサギ入りパエジャを食べたのは」
「あら、そんな事があったんだ。ふうん」
 心配の余りバルセロナまで見に来たというマイクたち、本当にダルを慈しんでいる事が良くわかります。マイクが信用してくれたからこそ、現在の“リブラ・カサノバ”があるとも言えるでしょう。


bdc.jpgさて、いよいよ日曜。マイクの運転する車で会場へ向かいます。フウは少しでも睡眠時間を稼ぎたがって、お弁当を準備中のジャッキーの車で後から来る事に。マイクは委員なので早めに行かなくてはならないのです。バンの後ろケージに妊娠中とは思えない細身のローレンが乗って、いざ出発。1時間ほどで着いてしまいます。
「イギリスは小さいからね、300キロ離れていると遠いって言うんだよ。スペインは広いからね、クラブ大会だって持ち回りで毎年各地方でやるようにしないと。まぁ、サラゴサあたりが中間地でいいんだけど」
「ほんとよね。スペインで300キロなんてあまりたいした距離には思わないわね」
 会場は外か中かをその日の天気を見ながら設定できる様になっていて、外は家畜の品評会がよく行われるらしく、キャンプ場も隣り合っています。キャンピングカーで移動しつつ参加するオーナーも多いのです。テントもちらほら見えます。委員会のメンバーは空を見て、体育館のような中の会場を選びましたが、こんなに良いお天気なのにとちょっと不思議。天気が変わると予測したのか知らん、と思いましたが終日晴天。つまり暑くなりすぎるのを嫌ったのかしら。 “BDC”の会員は入り口でカタログとピンが貰えますが、私たちはまだ会員ではないのでカタログを買い、ビセンスが口添えしてくれたのでピンも貰えてご機嫌。“BDC”の青と白のダルマークがきりっとしています。床にはカーペットが敷かれ、今回はリンクを2つに分け、オス・メスが別々な審査員によって審査されます。
「そんな事をしたら見にくいじゃないか。オスもメスも見たいのに」とビセンスはぶつぶつ。でもオスが先行で少し時間差は作られているようです。モーガン夫妻を見つけました。今夜マイク宅で落ち合って、皆で一緒に外で食事をしようという約束をします。ビセンスは相変わらず大勢の知人友人に挨拶をして回っています。彼はやがてスペイン・ダル・クラブの会長になるのですから、こういう社交辞令は大切。最も言われなくっても大好きなおしゃべりに余念はないようですが。モーガン氏は例の如くスーツ姿で決めています。イギリスの伝統あるダルの世界に新風を吹き込む事ができるでしょうか。イタリアからはアントニオ夫妻も来ています。ベルギーの審査員だったスミス女史ともご挨拶。あら、あのサラゴサのお兄ちゃんも来ています。ベルが欲しいと言った子です。ここまで来ているのなら(いつも“BDC”のロゴマーク入りのジャケットを着ているから、既に少なくとも1度は来ている訳ですよね?) 、もっとダルが解っていても良さそうなのに。例によってビセンスに引っ付いてきますが、さすがにビセンスは用心深い。下手に利用されまいという構えで、適当に挨拶して逃げています。ジャッキーと遅れて着いたフウと私は早速お店巡り。もっと期待していたのに意外と品物が少なく、ビセンスから聞かされていた陶器製のダルのお人形は出品されておらず、ちょっとがっかりですが、毎回出ているという手書きのタイルやマグカップのお店はあって、そこでマグカップとキーホルダーを購入。フウは悩んだ挙句袖なしのロゴ入りジャケットに決め、なかなかよく似合います。
「大丈夫さ、街の陶器屋にきっと人形はあるよ。君たちはこのお皿を買わないのかい? クラブ75周年記念の絵皿だよ。クラブの収入になるし、ちょっとでも手助けになればと思って、他では何も買わないけどクラブのものは買う事にしてるんだ」と、ビセンスに誘われましたが、絵皿のダルがあまり綺麗じゃない、と夫が反対するので、私たちはダルが描かれたクリスマス・カードを纏め買い。

bdc2.jpg さぁ、買い物も終わりオスの部が始まります。イギリス系のダルはみんな大きいと聞かされていたのに、私たちからすると左程でもない様に感じます。
「そんなに大きくないね、思った程」と、主人も同じ感想。大きいのを見慣れているせいなのでしょうか? やはり全体の質は高く、バランスの取れたダルが一杯です。出場させている人も本当に様々。いかにもプロ的な人から、農家のおばちゃん風まで。でもプロ的な人たちは少なく、みんな我が家のダル自慢、といった感じで和気藹々。全体がとても静かなのです。主人はビデオ撮影係なので、オスメス行ったり来たり。セルゥィンが登場しました。昨年よりさらに落ち着きを増し、胸幅も厚みを増したようです。相変わらず微動だにしません。首を引張り気味に見せる技もとても自然な感じに見え、そんなに無理に引っ張りあげているという感じはしません。当然ながら最終選考へ持ち越しました。
オスを見ていたビセンスと私の近くで、例のサラゴサのお兄ちゃんが何やらやっているようなのですが、英語が出来ないため、相手がビセンスに救いを求めてきました。
「スペインの方? 申し訳ないが通訳して頂けないだろうか」蝶ネクタイをしたこのおじさん、どこぞの大学教授風でなかなか面白い風格があります。ビセンスは知らん顔をしていたかったのですが、そうもいかなくなりついに腰をあげます。要するにこのおじさんの所で生まれる仔犬が欲しい、という事なのですが、通訳した後でビセンスがお兄ちゃんに教訓をひと垂れ。
「良い犬が欲しかったら、何度も足を運んで親しくならないと。ここはイギリスなんだから」

 メスの部門ではやはりマイクのローレンが気になるので、今度はそちらに走ります。妊娠しているとは思えぬ華奢さですが(エコグラフィでは1匹しか映らなかったとか)、小さいけれど確かにバランスは取れています。スポット が少し引っ付き気味ですが、色は綺麗な茶が出ています。サングラスをしてロックンロールなマイクが決めのポーズ。無事に6位入賞を果たし、ジャッキーもひとまず安心。
「まずまずね」
 この会場でジョーの親元THEAKSTON家のジョアンをちらりと教えてもらいましたが、いろいろとトラブルのあったご主人と離婚したばかりで、夫婦で持っていたダルを分割したばかりの彼女、今回は出場していません。会場ではちょっと人目を気にしている風なので、キャンプ場に訪ねて来てくれとビセンスは言われたようです。
「とてもいい人なんだよ。早く立ち直ってくれるといいんだけど」と、ビセンス。そう言えばこちらに来る前に、マイクの所から次はジョアンに会いに行くかもしれないという話が出た時、
「すごく素敵な人なのよ。離婚してひとりだしビセンスとうまく行くといいんだけどね」なんて、サルゥがこっそり私に目配せしていましたが…。

  いよいよ最終選考。残念ながらセルゥィンはRCC、2位でした。
「イギリスの大会に余所者は勝てないって事さ。手間隙かけて連れてくるような、無駄はしない方がいいな。自分なら連れて来ない」と、ビセンス。でも、勝つことだけではなく友人との交流が楽しめるのだし、参加することにも喜びがあっていいと私は思います。しかしヨーロッパ大会常勝者のセルゥィンをどう取り扱うか、全員の神経が集中した場面だったので、気合を見ていた分ホウッと思わず溜息が。

さて“BDC” では本物の純銀のカップが沢山沢山用意されていて、これは次の本大会まで家に持ち帰ることができますが、返さなくてはならないのです。代々の名前がプレートに彫り込まれていくだけですが、それは美しいカップで最後の授賞式まで大会本部のテーブルに展示されていて、本当に大事にされており保険もちゃんと掛けられています。受賞者の手元に生涯残るのはリボンだけ。これも1位から6位までの色分けがあります。セルゥィンは最後に4つもカップを貰い、リボンは2 つ。記念写真に応じています。知っている人のダルがみんな立派な成績だったので、私達も何だか嬉しい。また、カップのテーブルの横には誰でも気軽に手に取れるように“BDC”の規約やクラブ申し込みなどが備えてあります。そして、犬を飼う前に読んで下さい、として用意されていたのが、この冒頭でご紹介した 3つのパンフレットです。覚えていますか?

 今読み返しても、これを初めて読んだ時のショックが蘇ってきます。本当にこれを読んでいたら、私達はダルを飼う事を躊躇わなかったかしら。これらのパンフレットを読んで、すべてに「YES」と答えられるでしょうか? ダルを飼っているあなた、毎日しっかりとした散歩をしていますか? 雨の日も? “犬” ではなく、家族として愛していますか? 

自分に問い直してみます。今のところ何とか「YES」を保っていますが、もっとも難しいのが長時間お留守番させていないか、と言う事です。これは仕事が忙しくなると、なかなか大変。パンフにもあったように、“60ポンドの仔犬”、つまり成犬になっても子供と同じ、誰も2~3歳の子供を長時間一人にしたりはしないでしょう、あれと同じです。
 ベルギーやオランダのクラブもそうでしたが、イギリスでも本当にクラブがしっかりしています。ダルが好きで大事に育てていこう、そういうダル・ファンをフォローしよう、という姿勢が非常によく伝わってきて、心が温かくなるのです。ダルもみんなお行儀がよく、攻撃的な態度を見せた場合は退場させられると聞きましたが、見ていて清々しい感じがします。私達もこんなクラブを創っていく事が出来るでしょうか。大きな課題です。遥々“BDC”本大会を見に来て良かったとつくづく思いました。

大会終了です。会長の老婦人がわざわざ私達の所までやって来て、
「遠くから来て頂いたけど、楽しんで頂けたかしら」と、ご挨拶を受けます。ベルギーでもそうでしたが、遠来の客を歓待する姿勢、ねぎらう姿勢はとても自然で気持ちの良いものです。
「はい、とても。楽しませて頂きました」
「またぜひいらして下さいね」
「ありがとうございます」
 そろそろ会場を出ようという時に、今日のオスの審査員だったピーター・ランス氏とその夫人がやはり挨拶に来てくれました。
「もしヨークの方にいらっしゃる事があったら、ぜひ立ち寄って下さいな」と、とても感じの良い夫人です。ビセンスが後でこっそり、
「奥さんの方が良く知ってるんだよ。彼女は感じがいいけど、旦那の方はちょっと好みが変わってるからな」と言っていましたが、それは自分たちの好みの系統とは違う、と言う事。ランス夫妻は「OBLERO」という血統名のブリーダーで、ヨーロッパに渡ったダルも多く、各国で多くのチャンピオンを輩出している名門です。また例えばジョーのTHEAKSTON家の偉大なるチャンピオン「ルーカス(THEAKSTON TAMERLAN) ドゥルスバお祖母ちゃんの父親」も、ここの血が入っていますし、モーガン氏だってここの子を引き取っています。ベルにだって少しは血が入っている事になるのです。ただ、やはり見ていて少し小柄が好みの方かな、という感じはしましたけれど。憧れのイギリスのダル達をこんなにも見られて、堪能した一日でした。やはり運営組織がしっかりしているクラブがあるという事は、ダル達にとっても幸せな事に違いありません。

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