17匹目  ダル・クラブは井戸端会議から


ベルギーから帰って間もなく、フウの14歳の誕生日。11月から1月まで、何だかんだとパーティが続きます。誕生パーティは年を追って大人し目になってきました。幼稚園、小学校の間は結構大変。目まぐるしく教育制度が変わるスペインの中で、イギリス系の学校へ行っているフウは影響を受けていませんが、制度変更がどれだけちゃんと説明され父兄に理解されているのか、疑問に思うこともあります。

bell.jpg こちらでは生後45日から預かってくれる所もあるようで、これらが‘ガウデリア(保育所)’と呼ばれ、学校に上がる前の5歳児までが対象で、時間外も別枠で預かってくれるので共働き夫婦にとっては強い見方。この少し上に位置するのが‘パルブラリオ(幼稚園)’で、通常3歳から5歳児が対象。朝夕、1時間くらいの延長は出来ますがそれ以外はダメ。これには学校付属の所と単独の所があり、有名私立の付属幼稚園は倍率も高い。そして6歳から6年間が小学校。大概公立は小中が、私立は高校までが併設なので、3歳から16歳、もしくは18歳までと非常に幅のある年齢が同じ建物で学ぶ為、スペインの子供たちは上が下の面倒をよく見てくれる場合が多いようです。
 EUの中の学力低下が憂えとなっているスペインは、とうとう義務教育を16歳までに引き上げ、何とか平均値を維持しようと躍起ですが、ここで困った問題が出てきたのです。今までは14歳(中学)迄の義務教育が終わると就労出来たのですが、16歳に引き上げられた事によって全く勉強をする気のない子達も、義務教育という名の下に強制的に学校へやられ、しかも卒業できない落ちこぼれが増え、義務教育を終了できない為に働く事も出来ない、という大悪循環を生み出しています。またスペインでは小学校時から落第があり、小学校では偶数学年に一度、中学4年間には1度(小学校で落第していなければ2度)、落第が認められていますが、それでも終了できない子達を、親たちだって何処まで抱えていけるかという問題があります。ましてイミグランテス(移民)の割合が年々増え続けているというのに。現在のスペインの教育制度は画に描いた餅にすぎないのかも知れませんね。
 フウの場合は11ヶ月から“ガウデリア”へ預け、3歳から“パルブラリオ”に。双方ともカタラン語だけではなくカステリャーノ語(いわゆるスペイン語) も話す所を選びました。そして朝は主人が、午後は私か、私が行けない時は“カングーロ”と呼ばれるベビーシッターを頼みました。カタラン・カステリャーノ2国語を話す所を見つけるのは大変な事ですが、さらに日本人の“カングーロ”を見つけるのも至難の技でした。ですが出来るだけ多くの日本人と接触させたかったので、何時も何とか探してお願いして来ました。お留守番が出来るようになるまで、仕事と家事と子育てと、女としての人生と、あらゆるプレシャーを掻き分け掻き分け?て来たのです。

 さて話は戻ってお誕生日、幼稚園と小学校の間は当日にクラスのお友達とお祝いする為にケーキを持参します。そして小さな袋に駄菓子やちょっとしたオモチャを入れたものを人数分持参します。そしてスペインの子供は自分の守護聖人の日にもお菓子を持っていきます。1年に2度お祝いする訳ですね。フウも小学校の途中まではそうしていましたが、3年生か4年生の頃1週間にあまりにもお誕生日が集中し、授業に支障が出ると言うので、これは禁止になってしまいました。結構楽しい行事だったのに。フウ曰く、
「残念だったね、お母さん 」
 それからお家でもパーティが開かれ、クラスの仲間がおよばれします。フウの場合、幼稚園の頃は彼のお誕生日パーティとは、私たちの友人が年に1度盛大に集う日でした。家族をこの地に持たない私たちにとって、友人は家族以上に大事なものであり、また多くの人に祝って貰える事の 「喜び 」というものを知っておく事は、人間としてとても大事なことだと思うのです。小学校に入ってからはフウのクラスのお友達とのパーティと、我々大人組のパーティは別な日になりましたが、いずれも彼のお誕生日パーティに変わりはないので、この辺りの日程はてんやわんやになります。

 これが終わると12月、既に恒例行事になりつつあるジロナでの1年最後の締めくくりのエキスポジション、クリスマス、年越し、新年会と胃腸も喉もぐったり。今年のジロナ大会は25匹のダルが出場。チビダルたちの兄弟対決が見られます。今回はベルの兄弟であるフィリップが始めて出ると言うので、それも楽しみです。フィリップは 「そんなのどうでもいいことだよ 」と呑気なやり取りの末、血統書の名義変更をしていないそうなので、正式なオーナーはビセンスのままです。いずれにしろリブラ・カサノバの名を高める良いチャンス。ベルと同じカマダ(出産)でエキスポジションに出るのはこの2匹だけですから。

motolista.jpgベルはこのところ背中に茶色の斑点が出始めました。プロテイン(タンパク質)が多いとこうなりやすい、とビセンスのアドバイス。
「猫の餌を盗み食いすると出やすいんだ。猫のは犬のよりプロテインが多いからね。これはダル特有の悩みだね 」との説明。う~ん、ベルはキキの餌をよく盗み食いしているみたいだし。食事調整しなくては。
 今回はイタリア、フランスの顔馴染も参加。ベルギーで一緒だったガブリエル・ベットリもいて、皆でひと月振りのご対面。もう一人イタリアから参加 の人もいて、やはりイタ・ダルは痩せていてとても小さめ。ベルの体重は29キロと、イギリス系のメスダルとしては規格内ですが、イタ・ダルはさぁ23キロ程度ではないかしら。お腹が抉れてスタイルは良いのですが、あばらが透けて上から見ると腰の幅が極端に細い。お国柄とは言え、本当に色々ですね。ベルギーで見たダルたちはイギリス系が多いので、大概は良い体格をしていたのですが。このイタ・ダルのオジサンは愛想が良くて、英語が出来るので少しおしゃべりします。丁度ベルの茶色の斑点をこのマタロニ氏、目敏く見つけて、
「オー・ララ! これはダルの悩みの種だね。うちの子も前に出たんだよ。私の可愛いインターナショナル・チャンピオンちゃんにもね! 」と、ベルより小さいオスにチュッとキス。
「インターナショナル・チャンピオンなんだって、あのオス 」と、私が早速皆に話すと、
「ふんっ! 」
「そんな値打ちはないね。ドゥルスバなら当然だけど 」
「小さい! 」
「エーッ! 」と、まぁそんな反応で賑やかな事。まぁまぁ。

 さてチビダルですが、今回マリアがもう1匹のオスチビちゃん 「ユウ 」を連れて来ています。これはベジェスの従姉妹が持っているリブラ・カサノバのメスと何処かのオスを掛け合わせて出来た子で、引き取り手がないので今のところマリアが預かっているのです。マリアは犬の美容師なのでそこで引き取り手を探そうと言う事らしいのですが、やはりスポットの入りはまぁまぁなのですがが、全体の印象に艶がなく、そう“華”がないので、残念ながらエキスポジションには向かない様です。そしてもう一匹ブラッドの兄弟 「ペカス(そばかす) 」が出場。ブラッドが大きい大きいと思っていた私たちですが、このペカスの大きさにはびっくり。スポットの入りも綺麗で堂々としています。オーナーはルイス・ゴドー氏。
「ドゴーなんじゃないか、ダルじゃなくて? 」と、冗談にしたくなるほど大きいのでした。当然エキスポジション用に訓練されていないので、引く力のすごい事。ブラッドはビセンスが出しますから、ペカスはサルゥが担当。ユウはマリアが出し、ペカスが勝ちました。ビセンスに勝ったのでサルゥの嬉しそうな顔。
「どっちが勝ってもリブラ・カサノバだからね 」 まぁね。
 お次はチビメス。3姉妹対決です。まずビセンスがイダを、デビッドがキティを、サルゥがイネを。前回ベルギーで好成績だったイネにマリアが大きな期待を寄せていましたが、今回はイダが勝ちました。これまた、
「どれが勝ってもリブラ・カサノバだからね 」 まぁね。今回こんなにもリブラ・カサノバが集結したのですから、早速私はゴドーにも 「ダル・クラブ 」の話を持ちかけてみました。
「実は僕も考えていたんだよ 」と、ルイスは大乗り気です。喜んで手伝う、と言ってくれたので、ベジェス達も喜んでいます。

regalo.jpg さて、いよいよオープンクラス。本番です。今回はフィリップが始めて出るので、これもまたビセンスが。マニュエルは出るのは嫌いなんだそうです。ビセンスったら息切れしそう。ベットリのオスはジョーと同じくターキスタンの血を引いているのですが、とてもそうは見えないほどに小柄です。しかし何時見てもベットリのダルはよく訓練されています。
「ほら、やってるよ 」と主人。我が家でも一時期馬鹿受けしたご褒美を口元で“チュッチュッチュッチュッ”とやるやり方。
「やっぱり本家本元がやると風格があるね 」
 それに比べフィリップは慣れないリンクで慣れない事をやらされ、ちょっとソワソワ。ざっと見て、勝負はフィリップと例のイタリアのインターナショナル・チャンピオンとでしょう。さて、どうなるかな。おぉ。何とフィリップ、初出場にしてCAC獲得です、おめでとう! そしてチャンピオンクラスのジョーと対決。オスの最優秀はジョーが獲得です。
 さぁ、ベルの番だよ。この時主人が、ビセンスがずっと続けて出しているから、私が出したほうが良いんじゃないかなぁ、とぽつり。でもビセンスはベルを出すのを楽しみにしてくれているのですし、いまさらそんな事は言えません。また、全くの素人の私が出すよりはやはり美しいのでは? 
 ドイツ人のマリーのダルは相変わらずデブッチョ。今回は彼女ももう1匹のダルの雑種を連れて来ています。貰い手がないので引き取ったそう。もちろんエキスポジションに出す訳ではありませんが、可愛がられているので柔和な、のほほんとした顔をしています。
「またバルセロナ大会に来る? 」と聞いたら、マリーはこれを最後に、
「もう出さないわ。だって、あなたたちのと質が違うのが良くわかったもの 」と、エキスポジション参加は放棄。多分、その方が双方に負担がないでしょう。可愛がってもらってるんですもの、充分に。
「それに上手くいったら体外受精で妊娠してて行けないかもしれないし。そうなって欲しいんだけど! 」とマリー。
「大丈夫よ 」とサルゥ。そう言えばサルゥのライムも体外受精児なのでした。言葉の遅いライムにヤキモキしたサルゥが、
「ちょっと言葉が溶けるのが遅いのよ。何せ凍ってた子なもんだから 」と冷凍精子使用をひねって言うので、ギョッとした事があったっけ。

さて、決戦はベル対ベットリのイタ・ダル。やはりイタ・ダルと並ぶとベルは大きく見えすぎるのか、今回も負けてしまいました。
「イタ・ダルに弱いよなァ。やっぱり君が出したほうが良かったんじゃないか? 」と、いかにも残念無念そうな主人。ベルはRCAC、RCACIBを貰いました。6匹ものダルを同じ人が出すのは、審査員だってそれなりに配慮が働くのかもしれません。
 そしてオスの勝者ジョーと、ベットリのメスがMRを競いましたが、ジョーが負けてしまいました。そして残念な事に、これがジョーの最後の大会となりました。7歳になったジョー、毛艶の問題を常に抱えてましたが、これで引退。後は静かなペットとしての余生を過ごす事になります。ご苦労様、ジョー。素晴らしいチャンピオンです。

今回もうひとつ確認したいことがあったので、大会委員会の方に問い合わせに行きます。ベルの血統書名を作る事にしたのです。そのために必要な書類の確認をしておかねばなりません。と言うのもベルのオーナーであるフウは未成年。未成年には親の承諾書やらが必要だそうよ、とサルゥが問い合わせてきてはくれて、申請書は貰っているのですが、サルゥのインフォメーションは時として…。自分で確認しておいた方が責任の所在が判り易いですしね。
「未成年がオーナーになる場合、その時点で親の承認証が必要なのよ。それがちゃんと出してあれば、アフィッホ(血統書名)の申請の際には、再度必要はないんだけど 」
「でも、そんな手続き求められなかったけど? 」
「変ねぇ? とにかく、“リブロ・デ・ファミリア(家族証明書)” と親の承諾書、身分証明書の其々二通のコピー、それと申請書が要るわね。大体3、4ヶ月はかかるから早目に出した方がいいわよ 」との事。申請の為に3つの名前を考え提出、ベルギーのケンネル本部で世界中の血統書名と照合して、重ならないのを許可してくれるのだそうです。商標と同じですね。う~む、年明けそうそうクラブとアフィッホと、頑張らなくては!

 この日、フウは試験期間で家に残っていた為、私達はドゴーのペカスのグループ戦を待たずに帰りました。フウに連絡すると、何時もの様に優しく淡々と、
「残念だったね 」と言ってくれます。勝てば嬉しいのは当たり前ですが、負けても優しいのはありがたい事です。
 その夜、ペカスに付き添って最後まで残っていたベジェス達に結果を聞くと、何とグループ優勝したとの事。ゴドーの喜びや大変なものだったそうですが、勝てば翌日のファイナルに出なくてはなりません。
「まぁ、また行かなくちゃならないのね、大変 」と、私が言うと、ビセンスが、
「僕はもう行かない。自分の犬なんだし彼らが出せば良いんだ 」なんて言っています。確かにパピークラスの自分の犬ではない子の為にボランティアで行くのは大変な事です。ゴドーがちゃんとその辺をビセンスと話したのかどうか、ちょっと気になるところ。何となく彼ら一家の態度がお澄まし的だったし。“私は奥様。娘はお嬢様なのよ”と言う感じのゴドー夫人は、うちの犬が勝つのは当たり前でしょ、と思っているだけなのかも。まぁ、他所様の家庭だから知ったことではありませんが。とにかく、これでこの1年のエキスポジションが全て終了。オープン・クラスになってからのベルの成績はCACが1、RCACが1、RCACIBが1でした。

navidad.jpgさて、今年もクリスマスにはベジェスからのお誘いが、昨年は時間指定がなく昼と夜を間違えたので、今年はしつこく時間を確認。サルゥは金曜日の2時頃(スペインのお昼時間)と言います。しかし、またもや間違いが。25日が金曜だったのですが、サルゥは24日が金曜だと思っていた為、
「25日のお昼ね 」と確認した私との間でまたもや行き違いが。何時もの如くビセンスが、
「サルゥのやり方は知ってるだろ? 何にも聞いちゃいないし、考えちゃいないんだよ 」と、辛辣。あは、はは。
 今年はおちびが2匹加わって賑やかです。イダったらドアノブに手を掛けて体重を乗せ、ドアを開けるやり方を覚えてしまったので、出たり入ったりの後始末が大変。幼稚園に行くようになったライムもかなりおしゃべりできる様になりました。長い間 「コチェ(車) 」しか言わなかったので、皆心配していたのです。何故か私には最初の日から懐いてくれて、名前も直ぐに覚えてくれました。何でも宝物を見せてくれて可愛いのですが、結構我の強いわがまま坊やでもあるので、無理くり人に言う事を聞かせようとしたりするので、私ははっきり 「嫌だ 」と言う事にしています。でも、エキスポジションに行って両親が放ったらかしでも、一人遊びをして我慢強いのはエライ。何時もの様にプレゼントは自動車のオモチャ、ワンパターンですけど。

カタルーニャの伝統的なクリスマスのメニューは‘カルドス’と呼ばれるパスタ入りのスープ。これは鶏肉と牛骨、蕪、人参、ポロネギ、セロリ、ローリエ等をことことと何時間も煮込んでとったスープを濾し、これにクリスマス期に特別に売り出されるくりんとした大きな大きなパスタを入れたもの。それから七面鳥か地鶏に詰め物をして焼いたもの。今回は一日ずれた為、七面鳥はすでに昨日食卓に上ったそう。そして翌日には、このスープをとった後の鶏肉を使って、カネロネと呼ばれる一品が作られます。ミンチ状にした肉をパスタで巻いて、これにベシャメルソースをたっぷりと掛けチーズを削ってオーブンで焼くのです。前もって用意しておけるし、適当に最初の摘まみをワイワイやっているうちに暖めればいいので、全員が席に据わって頂けるのも強みです。デザートには‘トゥロン’ と言う、クリスマス特有のデザートがあり、挽き割りのアーモンドを固めたのやら、粒アーモンドを飴状にしたものやら、チョコレートアーモンドやら多種多様。濃厚なので沢山は頂けませんが、これがないとクリスマスの食卓ではありません。そう、カバもね。スペインではカバ(発泡性ワイン)は乾杯にも無論使いますが、本来デザートを頂く時に飲むものなのです。今日のメニューは、‘カルドス’と‘カネロネ’‘トゥロン’、これに私のお手製のクリスマス・ツリー型ケーキとシュトーレンで締めくくってお腹一杯。

 今回のクリスマスはクラブ・ダルマタの事で持ちきりです。やはり何だかんだ言いながら、ベジェス達も実は大変な期待をかけているみたい。資料としてイギリス、フランス、ベルギー、オランダの其々のクラブの会報誌と、お手本にする 「ブリティッシュ・ダーメション・クラブ 」の規約を借り受けます。あくまでもイギリス正統派を基としようという狙いです。プレジデンテ(会長)はビセンス。これはビセンスしかいないでしょう。後はセクレタリー(事務局長)と会計、それとビスプレジデンテ(副会長)を設けるかどうか。
「ビスは要らないだろう。まだそんなに大きなクラブにはならんだろうし 」
「でも他のクラブには皆いるわよ 」
「同じ家族で他の役員は勤められないって書いてあるわよ。マニュエルとサルゥは何をやるの? 」
「プレジデンテはビセンスよ、喋るの得意だもん。あたしとマニュエルはボカール(理事)よ。一杯口を出すの(口=ボカ、音遊び)よ。あはは。でも、何でもするわよ、あたし達、心配しないで 」
「マニュエルは会計が良いんじゃない? 得意じゃない、いつも任されてるし 」
「ダメダメ。僕はそういうの苦手なんだ。会計は君がいいよ、日本人はお金の扱いが上手じゃないか 」と、大騒ぎ。でも彼らと知り合って丸2年、何も知らなかったダルの世界に入り込み、わぁわぁやってるうちに何故かここまで来って感じです。

犬を飼うって本当に大変な事です。まず、犬がいかに私達人間の時間を束縛するか。朝夕の散歩、そして長くお留守番させるのは可哀想、という思いから家へと向かう足も自然と早くなるのでした。食事の時間も正確でなくては。乾燥フードだけではなく、手製の食事、ヨーグルト、卵、それに毛の薬に虫除け、ワクチン。爪も切らねばいけないし、更にエキスポジションに出ることによる様々な制約、時間とお金の問題。
 しかし、それを補って余りあるものをベルは与え続けてくれます。まず、喜び。ベルと暮す喜びは、毎日新たな泉となって私たち家族の中に湧き溢れてきます。そして誇り。ベルは私達にとって犬以上のもの、家族そのものであり、わが娘(フウが娘だと言うので、私からは孫?)そのものなのです。そして新しい犬友の輪。新しい世界。犬の飼い方を見れば飼い主そのものがわかります。人は誰でも自分の犬に対して虚飾を見せないからです。そうしていつかグループの様に残った犬友達との付き合いは、犬友広場を後にした今も続いています。犬への愛情、それが嘘ではない事を知っているからです。  年が明け次第少しずつ準備を始めなくては。殆どの準備作業は私一人でやらねばなりません。ベジェス達の口は驚異的な速さで動くけど、それ以外は呆れる程にのんびりなのです。当てにはしないつもりです。でも 「スペイン・ダル・クラブ 」に向けて発進です!

 翌26日、これも恒例になっているアデとパブロの家でのディナー。二日続けて食事を作らなくてもいいので、私は大いに羽を伸ばしています。空はよく晴れ、絶好のハイキング日和。どれお握りでも持って山に行こうかと話がまとまり、サン・ジョレンス州立公園に向かいます。この山は2つの登り方があって、表コースは何度も行った事があり、昨年は車酔いでゲロゲロだったベルとも登りました。それを思えば今回はよく持ち堪えて、大分車には強くなったね。嫌いなのは相変わらずで、乗りこむ時には必ず逃げの姿勢で抵抗するけど。
excrusion.jpg 今回は裏側からの平坦な遊歩道を歩いて、岩山に上りかけたところ、風が吹き始めました。なだらかなおっぱい型のようなサン・ジョレンスの岩山をゆっくり登って行くと、当然ながら柵も何もない細道を巻いて行くので、突然視界が大きく広がり、切り立った崖を更に巻いていかなくてはなりません。例によって下を見ると、あ~、くらくらっ。そしてまたもやベルがひょこひょこと崖っ淵に立ち下を覗きこもうとするのです。ピレネーでは5メートルで済みましたが、今度は真っ逆さまに100メートルは落ちて行かんとする絶壁です。全員悲鳴にも近い声で、必死でベルを呼びとめます。
「姫、ご乱心遊ばれるな! お気を確かに 」と、叫びたくもなります。どうにか引き返してきたベルの首根っこを捕まえて、
「どうする? 」
「繋いで登るのって、なお危なくない? すごい力で引っ張られたら恐いわよ 」と、想像力の逞しい私には、既に真っ逆さまのシーンが目の当たりに浮かびそうです。
「う~、くわばら、くわばら 」と、頂上登頂は諦めて引き返す事に。もう一つ視界の広がりは望めませんでしたが、晴れた冬空の清々しさは心行くまで味わえました。それにしても、
「日本でもよくハイキングしたけど、犬を連れてる人って見なかったよね 」
「うん。犬連れのハイキングなんて見た覚え、ないな 」
「日本の犬って、やっぱり不自由なんだね 」
 もっとも私達が日本でハイキングを楽しんでいたのは、今からもう14年も15年も前の事ですから、今は事情が変わって犬だって電車に乗れるようになったかもしれないし、犬を泊めてくれるホテルなんかもあるのかも知れない。でも、どうなのかしら。ヨーロッパの犬は基本的に無駄吠えをしないように躾られていますから、ホテルのお部屋でだって、まぁ多少はぐずついてもなんとか大人しく待っています。でも私の持っている日本の犬のイメージ(これも古いのかもしれないけど)は、いつもやたらと吠える。そんな犬を部屋でお留守番させるのは不安です。やはり 「犬を家族として飼う文化 」は日本には未だ根付いていないのでしょうか。家族として共に生活する以上、当然ながら躾は大きな意味を持ちます。日本人の子供の育て方はある意味 「公私のなさ 」を増長させているのではないでしょうか。親が自分の子供をちゃんと叱れなくて、 「ほら、そんな事すると誰々さんが怒るわよ 」と、責任転嫁するやり方を耳にする事がありますが、これは日本独特な親の逃げですよね。迷惑をかける事はいけない事である、という自覚が一人一人の中にない限り、甘ったれた子供が育つだろうし、甘ったれた犬しか育てられないだろうと思うのです。
「やっぱり狩猟民族の文化だよね、犬って。狩りの為に飼っていたのが長い時間をかけてペット化した訳でしょ、日本だってマタギだとか狩りをする家でしか飼われていなかった筈だし。ネズミ退治の為に猫が必要だった農耕民族とは、文化の質が違うよね。ほとんど家の中で犬なんか飼えないもの 」
「そりゃそうだ。長屋暮しでどうして犬なんか飼える? 」
「靴文化と畳文化の違いでもあるわけかぁ。それにしても、犬とハイキングも出来ない日本の事情って、ちょっとサミシイよね 」
「うん。でも、いいじゃない。ベルはここにいて、僕たちもここにいるんだからさ? 」
「そうだわね。ベルは幸せだよね。私達が日本に帰る家族だったら、ベジェスは絶対譲ってくれなかったわね 」
 どうか日本のダル達も自由に野原を掛け回り、ハイキングのお供も旅行のお供も出来る様になりますように。無駄吠えもせず、紐無しで歩いていても咎められない、そんな日が来ます様に。