13匹目  野遊び浜遊び



yayo.jpg 今年もカッファからカルソッツのお誘いがありました。今年は自分の畑で植えたカルソッツを食べよう、と言うのです。セマナ・サンタ(復活祭)の連休の一日、お友達の重子さん夫妻と合流して、例の如くワインのコーポラティボ前で待ち合わせ。しかし、私たちが携帯で連絡したその音で起きたらしいカッファとマルガリータ、寝起きの顔でやって来ました。
「昨日の夜遅くにバルセロナから来たんだよ」と、目の赤いカッファ。イラストレーターの彼は仕事が何時切れるか分らない不安定な業界なので、来るものは絶対に拒まず受ける、という姿勢を貫いています。教科書のイラストをCGでやっているのですが、教育制度の変革に継ぐ変革で、カタルーニャ州では毎年教科書が改定され、同じ兄弟でも使い回せないのです。教科書は全て自払いなので、何人も子供がいたら毎年の買い換えは大きな負担になります。まぁ、そのお陰でカッファたちは仕事に追われているのですが、細かい修正がしょっちゅう入るのと、話がスペイン的にコロコロ変わるのとで最後まで気が抜けず予定が立ちにくい、とこぼす事しきり。
 そのとばっちりで、カッファの所へ着いても何の用意もされておらず、あるのはカルソッツ(葱)だけ。ロメスコソースもお摘まみひとつもない有様で、これには呼ばれた我々5人、思わず口をあんぐり。例によって一番アウトドアー慣れしている主人が火を熾す担当です。重子さんと私は仕方もないのでマルガリータを急かしてロメスコソースを作ります。何にも出来ないチューさん(重子さんのご主人)が手持ち無沙汰そう。チューさんはホセと言う名前ですが、彼のバスク地方では愛称として名前の後にチューを付けるのだそうで、ホセチュー、これが日本語化されてチューさん、と呼ばれています。
「チューさんチューさんって言ってるもんだから、中国の方ですか、なんて聞かれる事があるのよ」と、重子さん。チューさんは内科のお医者で、ごつい顔をして下手な冗談を言うので、皆にちょっと不思議がられていますが、本当は気の優しい甘えん坊のバスク男です。重子さんはバルセロナ自治大学の翻訳通訳科の日本語課教授であり、同時通訳家としても活躍しています。1年程ですが、同じ建物の中で重子さんが大家代理人、私たちが店子として住んでいたことがあり、それ以来のお付き合い。かつて某出版社の為に共同で仕事をしていた事があって、カッファはその時からの付き合いです。カッファと重子さんは歩いて5分程の所に住んでいますが、お互い時間がないので年に1度私たちを介して会うくらい。今日は私の花見弁当と重子さんのデザートの組み合わせです。

margarita.jpg去年は繋がれたままだったベルも、今日は自由に隣の葡萄畑を走り回っています。枝を落とされて裸になった葡萄は皆、節くれだってねじれています。フランスの葡萄は結構真っ直ぐだった様に思ったのですが。広い葡萄畑にベルが立つと葡萄の木がベルの背丈くらいしかないので、何だか小人の国に迷い込んだみたい。薪集めから奔走する主人の後を付いて回ったり、フウと追い駈けっこをしたりと、一日外で過ごせるお出かけは大好き。ここには他所の犬も迷い込む事もなさそうだし、放っておけるので楽チン。この辺りはとても良い葡萄の産地で、セーラーが沢山あります。セーラー巡りも楽しそうで何時か行ってみたいと思いながらも、日曜は午前中だけしか開いていないのが殆どで、そう言う点でもスペインは急がず焦らず「神様の決めた休息日」を守ろうとしています。むろん、商業的な面から考えれば日曜に開店するという事は、家でぶらぶらしている人を呼びこみやすいのですが、日曜は基本的に皆お休み、と言う制度は慣れればこれでオツなものだと思うのです。24時間開いているコンビにも、なければないでナントかやっていた時代がちゃんとあったのですし、日曜は何も買えないと解ってしまえば、それなりに対処していくものです。最近はガソリンスタンドのミニスーパーもあるし、日曜も午前中だけは開けているスーパーも村に1つと言う感じで田舎の方にはありますけどね。別荘地や観光地の方が開けざるを得ないみたい。

 どうにか火が付き、やっとカルソッツにありついた私たち。こっそり来年からはパスしようなんて囁いています。
「せめてポテチかピーナッツでも用意しておくものよね」
「自前の弁当を食いに来たようなものよね」
「桜って、これ一本だけかね?」
「ネギを食うんならレストランの方が面倒がなくていいよ。薪集めからやらせるんだもんなぁ」と、腹が減った面々はぶつぶつ。う~ん、そうねぇ、火を熾して自分達で焼いて食べるのも楽しいけど、およばれなのに朝早くから弁当を作らなきゃならない、っていうのも辛いなぁ、と帰りの車の中では、何だかぐったり。春は行楽シーズン、色々あります。

filip.jpg さて、ベジェスたちからもお誘いがあって、ベルの兄弟を見に行こう、と言うのです。一回り大きくとても人懐っこかったあのチビオス、今の名前はフィリップ。シニア以外に見る初めての兄弟です。持ち主はピネダ・デ・マールと言う海辺の町でレストランを経営している若い夫婦。そこにはもう1匹やはりリブラ・カサノバ系のダルがいるとの事。楽しみです。
 ベジェスたちと落ち合う場所は何時もながらアバウト。彼らのオーガナイズたるや、かなりいい加減で、時間と場所の感覚がとても不思議なサルゥが連絡役を買って出るので、毎度毎度てんやわんやの騒ぎが持ちあがります。待ち合わせ時間や場所に関してとても日本人的思考回路を持つ主人は、これで何時も切り切り舞をさせられるのが癪の種。どかんどかんと癇癪を起こして、私とフウに嫌がられています。今回もまたしてもいい加減な待ち合わせ場所の指定の仕方、しかも時間になってもベジェスたちは現れず、場所が違うかと不安になった頃、高速の出口を一つ間違えて行きすぎたベジェスたちが逆方向から到着。 「いやぁ、参ったよ」とぼやきながらキスの挨拶を交わすベジェスたち。それはこちらの台詞だわよ。やれやれ。どうにか合流を果たし、さらに待ち合わせ場所の浜辺へと急ぎます。

いたいた! オスダルです! フィリップは大きくて中々の体格。しかも初対面のベルにいきなり乗っかろうとして、ベルに一発「ガウッ!」と牽制を食らっています。スポットの具合がベルに似て、耳も黒い。性格はすこぶる良さそうですが、メスに対して見境がない? ママのディジーにもちょっかいを出そうとして怒られています。ディジーとベルで二重攻撃。さすがにドゥルスバはもうあまり走りません。今日はお祖母ちゃん、ママ、妹に「お行儀良くしなさいよ」と、仕切られています。それからもう1匹、リブラ・カサノバ系のオス。飼い主は2度の離婚を切り抜けてきた逞しい女性、現在は3人目の恋人と一緒だとか。彼ら共々ダルは其々2匹目だとか。5匹のダルが居並ぶと、壮観です。

mar.jpg 始めて海を見たベルは嬉しそう! 砂浜を飽きることなく走って、水の中まで跳び込んで行きます。大きく口を開けながら走り飲みしてますが、塩水なんか飲んで平気なのかしら? 鳥を追いかけて走り回る姿に、「無邪気だな、ベルは」と、ビセンスが目を細めています。この頃からしきりとベジェスたちは「自分達は間違えた、間違えた」とぼやくようになりました。先だってディジーを連れてオランダまで行って来たビセンスが、現在妊娠中のディジーを愛しそうに撫でながら、
「この間は間違えたから、今度は気を付けるよ。一番いいのを君たちにあげちゃったもんなぁ。こればっかりは宝くじより確率が低いんだ。前のドゥルスバのお産の時だって、すごく良いオスが出たんだけど、その時は自分達にはオスがコスモス、ジョーと居たから残さなかったんだよ」
「ホントよね。あの子はすごく良かったのに。カディスに居たんだけど。ホントはディジーと掛け合わせたかったの。でね、連絡したら…。飼い主だった息子が事故に遭って、自分じゃ面倒が見られないからって、母親が処分したのよ。ヒドイわ。一言知らせてくれれば喜んで引き取ったのに」
「あぁ、あれは残念だった…。でも、大概の人間はそんななんだよ。まず自分達の都合が優先されるんだ。飼えなくなっても引き取り手を探そうもしない」
「それで別な兄弟にしたのよ。飼い主がエキスポジションには出さないけど、タチョは良い犬に変わりはないしね」
「うん。ちょっと運動不足で太ってるけど」
「へぇ。1度会いたいわ、ベルのパパに」
「家の山の向こうに居るから、また会う機会もあるだろうよ。この頃ちょっと付き合いはないけどね」
「あら、そうなの?」
「ほら、この前の目の色の違うオス、あれを引き取るって言ってたのに、結局断ってきたんだよ。もともとは掛け合わせ料を払うって言ってたのに、途中でオスがもう1匹欲しいからって言うんだ。で、結局土壇場になって女房の方からもう犬はいらないから、って言ってきて」
「じゃぁ、あの仔はどうなったの?」
「別な女の子にプレゼントしたよ。バルセロナの獣医学部の学生なんだ。で、その次の日だっけ? オスが欲しいって言う人から電話があったんだけど、もう手遅れでね、1匹分損したって訳」
「でも、仔犬はとても可愛がられているから幸せなのよ。でね、それからタチョの飼い主とはちょっと気まずくなってるのよ」
 なるほど。色々あるのですね。仔犬たちの将来を考えるといかにちゃんとした貰い手を見極めるかも重要なポイントです。
「良い仔犬でもね、ちゃんと育つかどうかはまた別な問題だからね。君たちは上手く育ててくれたよ、ホントに」とのビセンスの言葉に、我々一同思わず大照れ。

madre.jpg フィリップの飼い主のレストランへお昼を食べに行きます。ここではお店の中まで3匹のダルも皆一緒で入れてもらいます。奥まった席に入りますが、3匹はテーブルの下でごろんと横になって大人しく、
「スペインではレストランの中に入れてくれないけど、ちゃんと躾てあれば問題ないんだ。フランスなんか中まで入れてくれるけど、皆な大人しくしてるよ」
「そうそうチワワなんか膝の上に乗ってたりしてね」
 ホテルも受け付けてくれるホテルが少なく、「犬もOKなホテル案内」なんかまで出版されていますが、
「予約の時に確認した方が良いよ。コロコロ変わるから」と、スペイン人が言うといかにもって感じで説得力のある事。あはは。

 海はベルも大好きになったらしく、その後もデルタ・デ・エブロと言うタラゴナ県の米作りで有名な地方の“チリンギート”と言う浜茶屋風な、魚介を食べさせてくれる店へ名物の海老と牡蠣を食べに行った時も、フウと一緒に砂を掘って大はしゃぎ。
「ここ掘れ、ワンワンだ」
「きゃっ、砂掛けジジィ、じゃない、砂掛けダルマタだ!」
 4月の末とはいえ、まだまだ水は冷たいのに海の大好きなフウと主人は得意の貝取りに余念がありません。遠浅なのでどんどん歩いて行くフウを追いかけたいのですが、ある程度行くと足が浮いてしまい、それでもなお遠いフウを見やりながら、不安になって引き返してくるベル。でもまだ諦めきれず、また追いかけて行くのですが…。もうひとつ泳ぎは得意じゃないみたい。見ていて飽きません。

yaya.jpg さて、この日。のんびり日向ぼっこをしているとフウがいきなり、
「痛い!」と叫びだし、何かに刺されたと言うのです。見る見るうちに腫れて来るので、何とか車までフウとベルを運び、着替えをさせ夫を呼びに走ります。沖でのんびり貝採りに耽っている彼に、この事態を知らせようとするのですが、自分の世界に浸ってる男ほど厄介なものはありません? あぁ、恋人時代に雷が鳴って来たから引き上げる様に、川遊びに夢中の彼を迎えに行った時もそうだった、なんて昔の事まで思い出して。あの時は気付かせる為に石を投げまくり、やっと上を見上げさせたのですが、あんなに遠くては石も届かないし。手を振り声を張り上げ、やっとこっちを見た主人。私が喜んでると勘違いしてか、手を振り返しています。違うってば! 
「エ~ッ! 何それ? 何に刺されたのかな?」
「とにかく早く赤十字に行きましょ」と、収穫を名残惜しげな彼を急かします。海辺には必ずといって良い程クルス・ロハ(赤十字)の手当て所の類があるのですが、夏にしか出ないと言うので薬局へ行くといいと言われます。薬局で事情を話すと直ぐに、
「あぁ、それはアラーニャ・デ・マールにやられたね。大丈夫だよ、坊や。これを飲んで、氷で冷やすと直ぐ引いてくるよ」と、手馴れた対応。
「アラーニャ・デ・マール(海蜘蛛)?」
「そう、良くやられるんだよ。でも大した事はないから大丈夫」
 早速薬を飲んで、近くのスーパーで買った氷を氷嚢にしているうちに、本当にあららっと言う間に退いてきました。刺された所は芯が暫らく残ったようになっていましたが、これもやがて直って一件落着。ごく最近になって魚屋さんで「これがアラーニャ・デ・マールだよ」と教わったその魚は、薄い緑色の横線が何本か入ったごく普通の顔をしていましたが、背びれに毒があり、普段は砂の中に潜って背びれを突き出してるのだそうです。それを踏んでしまった訳ですね。
「痛いって言ってるのに、直ぐ来てくれなかった」
「いやぁ、貝採りなんて久しぶりだったからさぁ。でも、ほら晩御飯のお吸い物になるぞ」と、タジャリーナを見せてくれます。これは横長の薄緑色の二枚貝で、良い味が出るのです。海のレストランではニンニクのみじん切りとイタリアン・パセリで、言わばワイン蒸しのようなものを食べさせてくれるところもあります。実際は蒸すのではなく、オリーブオイルで炒め蒸しですけど。
「昔は沢山採れたのにね」
「ほら、お父さん。舌平目掬ったよね、ここで?」
「うんうん。そうだった。足を突ついてきたから、踏んづけてやって網で掬ったら、舌平目だったんだよね」
「あそこのヨットハーバーで、紋甲イカも掬ったよね」
「そうそう。あれはお好み焼きにしたんだっけ?」と、食いしん坊一家の私たち、浜遊びもやっぱり楽しい。遊び疲れたフウとベル、帰りの車の中では二人で鼾をかいて熟睡です。ベルの熟睡度はフウ並みで、私たちが家に帰っても気が付かない事もあって、触られてやっと目が覚め、お寝ぼけで吠えてウロウロ。全く番犬になんかならない。車の中でも足を伸ばしてフウを押し退けながら、時にはエルボーアタックをしながら寝ています。ベル可愛さのあまり怒れないフウ。ベルが来てから彼も変わりました。ちょうど年齢も良かったのでしょうけど、やはり粘って粘って手に入れ、ベジェスから誉められるくらいのダルに育てたと言うのが、何よりも自信になっているみたいです。

fu.jpg さて、やっとオープンクラスの資格15ヶ月を超えたベルに、久し振りにエキスポジションの誘い。今回はカタルーニャ州の地方大会で小振りなものですが、マニュエルとサルゥがジョーを連れて来てくれます。ビセンスは腰痛持ちでこのところ仕事の忙しさから痛みがひどく、この週末は家で養生中だとか。カタルーニャだけでも年間に12の大会が企画されています。そのうちインターナショナルがバルセロナとジロナの大会、国内大会がビッグとレリダ、これらがエキスポジションと呼ばれ、あとの州大会はコンクールと呼び別けられていて、今回のカルデデゥもそのひとつ。つまりカタルーニャ州チャンピオンのポイントにはなるけれど、スペイン・チャンピオンのも、インターナショナル・チャンピオンのポイントも出ないコンクールな訳で、思えば、既にスペイン・チャンピオンのジョーが、こんなマイナーな大会に出る必要など全くないのですが、ベルが場慣れをする様にと、私たちを引っ張ってくれているのです。本当に感謝しなくては。
 マニュエルがジョーを出すので、今回は久し振りに何とまたまた私の出番です。カルデデゥと言う温泉のある田舎町のフィエスタ・マヨール(村祭り)らしく、犬の会場近くでは馬の催しもあり、屋台がズラリと出て移動遊園地も来ています。まぁ、村祭りに色を添える企画らしい。ごわごわとした芝生がリンクで、 5月も中旬の外の大会は気温もかなり上がって来ますから、既にげんなり状態のベルはひたすら日蔭でお休みです。
「こんな草だと小さい犬種は大変だよ。ダルなんか関係ないけどね。ご覧、あんな小さくちゃ草に埋れて走れやしないゾ」と、マニュエルの言う方を見ると、本当にヨークシャー・テリアなんかは気の毒なくらい、草の中をチョコチョコと浮いたように走っています。

 さぁ、いよいよダルの出番。既にうだる様に照りつける陽射しの下、ベルと私が走ります。結構良かったぞ、と主人の合図にホッ。何と決勝はチャンピオンのジョー対新人ベル! ゴングが「カン!」と鳴って、ベルは惜しくも敗れました。まぁ、ジョーおじさんが相手なんだから当たり前か。審査員曰く、
「あと2キロ痩せてたらパーフェクトなのに!」
 マニュエルにそう伝えると、
「2キロ? とんでもない! まぁ、1キロくらいは良いけど、落としすぎちゃベルの持ち味が出ないよ」と、慰め? 既にベルは29キロと、ディジーを追い越さんばかりの勢い。2キロ減量は厳しい。これがモデルの宿命でしょうか。
「やっぱりトップ・モデルの世界なんだなぁ。食事制限と運動量を増やすしかないか」と、主人。しかしこれ以上運動量を増やすという事には、私たちの時間制約もあり難しい問題です。しかもこの所、私たちは大きな問題を抱えていて、それをどう処理するかに家族一同大変な思いをしていたのでした。何とかしなくてはいけない問題が重なり合って、気の重い初夏が過ぎようとしています。


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