10匹目  名刺製造装置とは?


9月に入るとそろそろ天候が変わってきます。本当に9月の声を聞いた途端に、あの雲ひとつなくスゥッと白く霞勝ちに晴れていた空はぐずつき始め、雨が降り始めます。晴れれば夏並にまだまだ暑いのですが、一雨ごとに肌寒く感じられる日が増えていき、やがて10月も末になると秋本番になって行くのです。

yayo.jpgさて、日本から帰ってきて直ぐお土産を持って行った時に、ビセンスから9月の第3と第4日曜にエキスポジションがあるから出ないかと誘われました。小さな大会だが場慣れした方が良い、と言うのです。久し振りに見るシニアは相変わらず大きくて、落ち着いた感じでもう余りお子ちゃまの雰囲気が残っておらず、相変わらずお転婆なベルとはエライ違い。それでも庭を駈け回り始めると、さすがに若い二匹は良く遊びます。でも何時までも遊んでいたいベルと違って、いつでもママのディジーが遊んでくれるシニアは引き際を知っている感じ。年功序列の中で暮らしているので、一人娘のお姫様扱いのベルとはちょっと違うのは当たり前でしょう。でもお腹がすっきりくびれて、まだぽっちゃりした感じのベルが勝てるとは思えません。しかし、シニアはこの夏に手術をしたと言うではありませんか。なんだか二、三日食欲がなくおかしいなと思っていたら、突然血便が出て、腸閉塞で開腹手術をしたそうです。今ではすっかりお腹も綺麗になって、言われなければ開腹痕も見えませんが。
「開けたらね、まぁ、松ぼっくりやら木っ端やらで一杯で。そう言うのが詰まっちゃったらしいのよ。一体どんなものを食べてるのやら、恐ろしいわね」
「ベルも松ぼっくり、良く食べてるわ」
「松ぼっくりは悪くはないんだよ、別に食べすぎなきゃね。でもお腹に詰まるほどは、行き過ぎだよなぁ」
「それにね、シニアは大きく育ちすぎちゃったのよ」
「え?」
「メスとしてスタンダードの規格を超えてるんだ。それに前足が後ろより少し長いだろう?」
「そうなの?」

 私たちは慌ててシニアを眺めますが、どういう具合に前足が長いのか、ウ~ム、もうひとつ分りません。大きいなぁとは常々思っていたことでしたけど、だからと言ってメスの規格と言われても…。
「だからね、背中が少し曲がってしまうんだ。もちろん見せるテクニックで、ある程度カバーはできるけど。でも、難しいな」と、マニュエル。難しいな、と言うのはむろんチャンピオンにする事を想定しての発言です。彼らにとっては当然ながら、自分達のダル道を完全なものに近づける為のなくてはならないタイトルなのです。
「実はね、マニュエルと私はベルを残したかったの。でもビセンスが白くて大きいのがいいから、って言い張るから」
「それにベルはもう君たちにあげるって決まっていたし、後から換える訳には行かなかったしさ」
「ビセンスに決定権があるのよ、でもねぇ」
「要するにビセンスは間違えたんだよ。ベルは全体のバランスが取れている。ご覧、前足と後ろ足のバランスが正しいから背中が真っ直ぐだろう? 完璧な犬なんて、絶対にいないんだよ。みんな何かしらここが・・・、って言うものがあるもんなんだ。スポットだって細かい点の様なのはない方がいいって言われるしね。でも、まずはバランスが一番大事さ」
「ベルはホントに綺麗よ。ま、やっぱり一番可愛い子をあげるって言った私の言葉は間違ってなかった訳よね」と、サルゥはちょっとビセンスの間違いに、いい気味的。
「もちろん私たちにとってシニアは可愛い子に変わりはないわ。でも大きな大会には出せないわね」
「今度のには出すよ、小さい大会だし、他に誰も出ないんじゃつまらないだろう?」

 私たちから見ればシニアはとても綺麗ですし、彼女よりもっともっと見劣りするダルを出している人も沢山いるのですが、やはりこだわりのブランド“リブラ・カサノバ”としては、規格外と自分達が思うダルを出す訳にはいかない、今後の信用問題に関わる事なのでしょう。でも、このベジェスたちが間違えてしまった、と言う話は私たちに強い衝撃を与えました。そして彼らがこう言ってくれた事も。
「君たちだからちゃんと育ったのさ。良い食事とたっぷりの運動。これを本当にこなし続けられるって、大変な事なんだよ」
「でも、私たち何もかも言われる通りにしただけで」
「ちゃんと出来る人たちなんて、そうそういやしないのよ。あなたたちに貰われて本当に良かったと思ってるのよ、心から」
「ところで、君たち、ベルに子供を産ませる気はあるかい? むろん、もっともっと先の話だよ。でも興味はあるかな?」と、マニュエルが聞いてきました。ベルの子供?
「うんと先の事だよ。まずチャンピオンにしなくちゃ」と、ビセンス。チャンピオン?
「ベルは充分チャンピオンになる素質があるよ」
「自分の所に残す残さないは別にして、メスは一度は産ませた方が身体の為にもいいんだ。産ませるにしても2度か3度くらいだよ。それ以上は体力が弱るからね。ドゥルスバなんて一度だけだったし」
「そりゃ、産ませてみたいけど、ねぇ?」と、私は夫とフウの顔を見ます。ベルの子供と聞いただけで、きゃーっ、可愛い! 
「1匹は残したいわ、メスを」
「うんうん、メスのほうが楽だよ。そうか、産ませたい? じゃね、自分達でアフィホ(血統書名)を持つ事も考えた方がいいよ」
「アフィホ?」
monistrol.jpg「そう。自分達で持たないと、血統書名なしか、後は例えばうちで産ませた事にしてうちのリブラ-カサノバを付けるってやり方もあるけどね。うん、そうか、いいな、産ませるんだね」と、マニュエルはずいぶん嬉しそうです。
「イギリスのと掛け合わせたらいいんじゃない?」
「サルゥったら、うるさいぞ。イギリス? 入国許可の為に6ヶ月間もの血液検査証明書がいるんだよ。しかも国の機関に出してもらう公式なものが。そこらの獣医のじゃダメなんだ。とんでもない手間だよ」と、ビセンス。
「でも入国できるんでしょ、マイクロチップがあれば検疫所に入らないでも?」
「そうだよ、今は6ヶ月間検疫所に入れなくても良くはなったんだ、確かにね。でも血液検査証明書はいるんだよ。イギリスは自分の国から犬を外に売るのはいいけど、他の国の血が混じるのは極度に嫌うんだ。だからこそ、良い犬種を保っているのさ、アメリカなんかと違って」
 ふ~ん、と感心する事ばかりです。血統書名か。自分達の系図を作っていくなんて、何だか夢のまた夢の気がするけど、ベルを始祖とする血統ができるなんて、素敵だなぁ。大体わたしは素敵だなぁ、と感じた事は深く思い悩まず素敵なままにしておこうという気が強いので、もう私たちの血統書名を作る事は決定事項のファイルに入ってしまったのでした。

さて、例によって大会の申し込み手続きは彼らが代行してくれ、私たちは言われた会場に行くばかり。どちらかと言うとお弁当作りに張りきっているような…。でも、また私が出すのかしらん?

 9月19日、会場はモンセラットの麓モニストロール村。村のサッカー場だそうで、場所は知っているので直接現場で待ち合わせにします。前日から生憎の雨、当日も霧のように細かい雨が降っています。今日の大会もやはりカタルーニャ・ケンネル協会主催ですが、これはカタルーニャだけのもので、CACは取れませんが、カタルーニャ・チャンピオンのポイントにはなるそうです。つまり、各ケンネル協会が主催する地区毎のチャンピオンへのポイントが取れる大会、そして国内チャンピオンのポイントが取れる大会、国際チャンピオンへのポイントが取れる大会、といったようにエキスポジションにも3つの格式があるのでした。

 カタルーニャだけの大会だという事と、生憎の雨という事もあって、今日は出場を見合わせた人も多い様です。特に長毛タイプは怖くてこんな泥だらけの会場へは出せないのは当たり前かも。朝からずっとブラッシングして、ものの1分もしないうちにおじゃんじゃ、浮かばれないでしょう。ほとんどの犬が車の中で待機させられています。また雨脚が少し強まり私たちもサッカー場の僅かな庇に雨宿り。でもヤケクソのようなお祭り気分は高まって、これはこれで結構楽しい。

 さて今回からベルたちはもう仔犬クラスではなく、ヤングクラスへステップアップです。またまたシニアとベルの姉妹対決。サルゥがシニアを、そして今回からはビセンスがベルを出してくれる事になって、こちらも義兄妹対決! 以降、ベルは常にビセンスの手に委ねられる事になります。上手い具合に雨が止み、ドロドロヌチャヌチャの中での姉妹対決はベルの初勝利です。フウの嬉しそうな顔。露骨に喜んではいけないと分ってはいるのですが、頬が緩むのは彼にも私たちにも仕方のない事、サルゥも喜んでくれます。そしてベルはヤングクラスのグループ決戦に挑みます。ジョーも当然勝利、彼はMR(メホール・デ・ラサ)、つまり各犬種の中の最優秀(BOB)を獲得。


igualada.jpgグループ決戦は全ての犬種が出揃ってからなので、ここでお昼にする事に。しかし、またもや小糠雨が降ってきたのでベルとシニア、ジョーはベジェスの車に避難します。彼らの車は常に犬数匹を考慮してのワゴンタイプなので、3匹までは何とか大丈夫なのです。人間達は全員うちの車に。ヒーターをかけ濡れた身体を温めながら、お弁当を広げワインを開けての盛り上がり。彼らは日本式お弁当がすっかり気に入った様で、お握りだって上手に海苔を巻いて食べます。前の座席に夫とビセンス、後部座席にマニュエル、サルゥ、フウに私。ライムはサルゥの膝の上でなんと総勢7名がひしめき合っての大はしゃぎ。
 生憎と雨に煙って聖地モンセラットは姿を現さずじまい。モンセラットはカタラン語でのこぎり山。石灰岩と礫岩の交じり合った地質ですが、長い間雨風に侵食をされ続けて、指を突立てたようなと形容される不思議な岩山を天に向けて差し出しています。ガウディがこの岩山の形から聖家族教会の塔の形のインスピレーションを得た、と言う説もありますが、中腹に11世紀からの歴史を持つモンセラット聖母マリア修道院があり、聖地として巡礼の意味で訪れる事もあれば、遠足として登る事もあり、カタラン人なら生涯に何度かは訪れる所です。中腹からはケーブルカーで更に標高1000メートルまで登って行けて、そこからの眺めは素晴らしく晴れていれば地中海、そしてピレネー山脈を見渡す事が出来ます。今日は山が何処にあるのかも分らぬほど、すっぽりと雲に覆われていますけど。
 午後のグループ対決では最終3匹の中にベルが残り、周りの人たちが「ダルマタじゃないか、勝つのは」「すごく綺麗」なんて言ってくれるので、すっかり嬉しくなってしまいます。残念ながら1位にはなれませんでしたが、堪能した一日でした。

 次の日曜、イグアラダと言うバルセロナからは車で1時間少々の処で、今回もやはり屋外で開催。この日は先週とは打って変わって真夏日のような日、私たちはキャンプ用のテーブル椅子セットを用意して来ましたが、パラソルまでは思いつかず、炎天下、陰のない中で苦しむ事になります。ベルは暑いのが嫌い。テーブルの下の僅かな陰で少しでも身体を冷やそうと必死で土を掘っています。あまりの陽射しに私はベル同様ぐったり。ビセンスがベルを陰から引っ張り出し、何とか調整しようとするのですが、一刻も早く日陰に避難したいだけのベルはやたらと引っ張っています。相変わらずシニアはお利口サン。あろう事かリンク場で不貞腐れたベルはお粗相をしてしまい、思わず「あちゃぁ!」 フウが我が娘の態度に恥じらいの顔をしているのが、お気の毒。当然、ベルの負け。ですが評価は「ムイ・ブエノ」だったのが救いです。そしてこれがシニアの最後のエキスポジションになりました。彼女はこれからペットとして平穏な生活を送るのです。

 この大会のダルたちのリンクの横がブル・テリアで、最近飼い主を噛殺した事件が報道され話題になっている犬種。顔はちょっとお間抜けそうにとぼけて見えるのですが、性格は獰猛で国によっては規制の動きがあるとも言われています。この白地を際立たせる為と性格を和らげる為に、ダルマタと交配させたというのですが…。どうも見てると飼い主がみんなアンちゃんネェちゃん風で、類は類を呼ぶのでしょうか。
「バルセロナのポブレ・ヌウ(旧工場地帯で荒廃地区として知られる)辺りで集まって、噛みつきあいをさせてるらしいよ」と、マニュエルが言います。
「あぁいうのは噛みついたら離さないんだ」と、ちょうど恐る恐る話していたら、若い娘の悲鳴が突然上がり、会場中騒然。なんと、出番待ちだったブル同士が噛みつき合って、1匹は相手の頬の処を今にも噛み切らんばかりの有様で、噛まれているのは娘の方らしく涙を流しながら悲鳴を上げています。もう1匹の飼い主の若い男が何とか引き離そうと足掻いた挙句、相手の頬がだらりと垂れやっと引き剥がせたらしい。らしいというのは怖くてとても見てられなかったので、マニュエルたちから聞いた話。絶対ブル・テリアには近寄らない様にしなくては。
「イギリスだと、会場で少しでも騒ぐような犬は直ぐ退場させられるよ。攻撃的性格の犬は参加資格がないと、規定書に書かれてるからね」
「特にダルたちはみんな友好的で静かだよ」
 確かにこれだけの犬種が非日常的空間の中で何時間も、ある意味閉じ込められているわけですから、ストレスが溜まるのは当たり前なのかも知れません。ベルだって暑さでイライラ、「何だってこんな目に会わなきゃ行けないの、お家でのんびり寝てたいのに!」と、ストレス溜めてそうだなぁ。
 しかし、やはり二週続けて大会に連れ出すのはこちらも疲れます。レリダではもう二度と行くもんかと息巻いていた夫が、良くまぁ付き合ってくれたものだと感心。どうやらこの夏、私たちの不在中にベルを独占し、毎日連れだって森を歩いた事が連帯感を強め、この夏の目覚しい成長を自分が担ったと言う自負が、夫の支えとなっているようです。私も毎週日曜をキープするのはちょっと大変。ここらでエキスポジションとはちょっと一息つきたいな、と言うのが正直な感想でもありました。

 さて、この頃になるとベルがエキスポジションに出ているという事も犬友仲間に徐々に知られるようになって、ベルの注目度は更にアップ。毎朝会うモンセとエバはむろんの事、色んな人が喜んでくれるのも嬉しい。犬友広場の夕方の集会はますます賑やかになり、ここでのお喋りが楽しみで来るという人も多いのでした。その中でも中心的なのがモンセとコレッチャおじさん、それからイギリス・ブルドッグ「チャーチル」のぺラおじさん。時々クゥニーの本来の持ち主であるセルヒオが恋人のモニカとやって来ますが、彼はプロを目指すテニスのジュニア専任コーチとして、遠征に付き添っていく事が多いのでコレッチャおじさんがほとんどクゥニーの面倒を見ています。一度だけ、アレックスもやって来て、
「あぁ、これが噂のベルだね。大きいなぁ」と、気さくに声を掛けてくれました。実は本物のアレックス選手にお目にかかったのは、家族の中では偶然にも私だけ。一度目はコレチャおじさん行き付けのパン屋さんの前で、ちょうどオーストラリア遠征からくたびれ切って帰国したところ、お迎えに行ったコレチャおじさんが息子を車に残してパンを買いに下りたところだったのです。疲れ切っている息子をわざわざ車から呼び下ろして、「ほらこれがベルの飼い主だよ」と紹介して頂いた時は、申し訳ないやら嬉しいやら。家庭の躾の良さをつくづく納得したのでした。コレッチャおじさんは元私立高校の校長だったそうで、現在はテニスプロのアレックスのマネージメントをしていますが、この年アレックスは絶好調。今度優勝すれば犬友仲間を食事に招待する、と言う願掛けをしたのでみんなアレックスのbell.jpg応援におおわらわです。アレックスは私たちも週に2、3回通っていた地元テニスクラブ出身、本当にサン・クガットっ子な訳ですから、地元の声援も盛り上がっています。このところ犬友広場は寄ると触るとその話でしたが、残念ながら優勝はならず、お食事会の話は夢と消えたのでした。ですが、犬友仲間の中から、では残念会を催してコレッチャさんを慰めようという話が逆に立ち上がり、その話の中心になったのがペラおじさんと茶ラブラドール「ブバ」の飼い主アントニオでした。

枝でも布切れでも何でもかでも、あるもの片端から口に咥えてそれを他の犬にこれ見よがしにちらつかせ挑発するブバを、私たちはあまり好きではありませんでした。犬の世界は力関係ですから、気の弱い犬、力の弱い犬は押さえ込まれてしまうのですが、ベルときたら気は強いし力はある、という訳でブバに服従する気なんかさらさらなく、ブバにしてみれば口に咥えたものを取りっこして欲しい(相手と楽しみを分け合う気など毛頭ないのですが)、それ欲しい、羨ましいな頂戴、という風に飽くまでも相手を唆し最後は自分の力の下に押さえ込みたい訳です。デブっちょブバの力に見合う相手はほとんどなく、何故か年頃も同じなベルが標的にされ、ベルがクゥニーやルアーと仲良く遊んでいると必ず割りこんできて、ベルにちょっかいを出すのでした。クゥニーもルアーも同い年ですが気が弱いのでブバは相手にしません。モンセのオナは年上なのでブバを相手にしませんし、オナはオナで結構気が強くワンワン吠えてばかりいます。あまり吠えるのでモンセも困って石を投げて気を逸らしたり、離れた所へ引っ張って行ったりと仲間に気を使う事しきり。どうやらオナは自分が年長だという言う意識から支配欲が強いらしく、ベルやルアーを見つけるとまず耳元でわんわんと吠えたてるのですが、その時のベル、顔を顰めていかにも迷惑そうなのが実に人間的表現方法に沿っているので、思わず苦笑してしまいます。ブバが来てベルに枝か何かを見せびらかせ、ウゥウゥと唸って挑発しています。ベルはクゥニーたちと遊びたいのですがブバが割りこむせいで彼女たちは散ってしまい、しかたなしに暫らくブバの相手をするのですが、このブバが何と言うか「イケズ女」なので、ベル同様私たちもあまり遊ばせたくはありません。飼い主達は気にも掛けていないようで、自分の犬がどういう性格で他からどう思われているかなんて歯牙にもかけていないのか、そういう感性がないのか。きっとどちらもだ、というのが夫と私の一致した意見。

 まぁ、そういうブバのあまり気に食わない飼い主ではありますが、コレッチャさんの残念会とは関係もない事ですし、犬友仲間の親睦会にもなるしと喜んで参加する事にします。場所はサン・クガットの外れにある旧農家邸宅(マシア)を改装したレストラン。待ち合わせ場所は犬友広場近くのシネマ前。そこから何台もの車が連なって大移動です。レストランでは凹型にテーブルセッティングされていて、コレッチャさんを中心にそれぞれ席に着きます。私たちはブバ組とは離れて反対側に、生憎仲良しのモンセやエバたちとは隣り合わせにはなりませんでしたが、黒のベルギー牧羊犬「トビー」のマノロ&マリッサ夫妻と、その横にはその友人フェラン&マイテ夫妻(彼らとは時間帯が違うせいなのか広場で会った覚えがあまりないのですが)、そしてオスのシュナウザ-「トゥインキー」のクリスチャン&ラウラ夫妻、と席を囲みます。総勢子供達も入れて25名くらいは揃ったのかな。不思議な事にこの時に席が近かった犬友仲間とは息が合って、未だに長いお付き合いが続いています。

 犬友仲間は犬の名前を中心にしているので個人名まではなかなか行きつかない場合が多いのですが、この親睦会(本来はコレッチャおじさん残念会)を機に、一歩進んだ会話が出来るようになりました。例えば、この時初めてマノロが彫刻家でありバルセロナ大学美術科の教授だという事、その奥さんのマリッサ(広場には来ないので全員初対面)はバルセロナ自治大の中世美術史の教授である事、またフェランは会計士で嘗て日本の企業の仕事なども請け負っていたとか、その奥さんのマイテはやはり中学の先生だとか、クリスチャンはバルセロナ育ちのドイツ人だとか、知らなかったことが色々。彼らも夫が日本人初のスペイン公認建築家で自治大の日本庭園を造った事とか、日本のスペイン大使館の仕事をしてる事などを聞いて興味津々。自治大の通訳翻訳科には私たちの友人が助教授としているので、そんな事でも盛り上がり、話は尽きないのでした。纏め役のペラおじさんがテーブルを回って写真を撮ってくれ、最後に集合写真を撮って散会。楽しくも実りある親睦会になりました。

 さぁて、市場には沢山の茸が出揃い楽しみが尽きませんが、秋はセロ(発情)のシーズンでもあります。まさしくメスを巡ってオス同士がヒートします。この犬友広場には森での仲良しハスキーのゴルフォもやって来ますが、同じくハスキーのコナン、それからベルギー牧羊犬の黒トビー等、それぞれ似たような体格の持ち主が鉢合わせをすると、ウゥウゥと唸りあって鼻を付き合せる様にしながら、くるくるダンスの様に輪を描き続けています。飼い主がすぐ傍で名前を呼んでコントロールしているのでそれ以上広場で遣り合うことはありませんが、迫力ある前哨戦に関係のない私もつい興奮。こうなるとお子ちゃまには目もくれないので、ベルは今だ枠外で呑気に遊んでいます。
 ベルと同い年の中ではブバがまずセロに入りましたが、如何にもという感じ。そう、体型でいうと既にウエストのくびれもない頭の鈍そうなふしだら娘的なのです。どうしてラブラドールって太らせてしまう人が多いのかしら。しかもラブラドールのセロってフェロモンの発散が異常に強いのか、オスと言うオスが大から小まで大騒ぎ。ブバが来ると広場はたちまち騒然としてしまいます。ところがこの飼い主夫婦、どうもそれを楽しんでいる風で、
「ま、うちのブバったら、マリリン・モンローみたい! きゃぁきゃぁ!」と、奥さんがはしゃぐ事はしゃぐ事。おいおい、あんた自分の娘にもそうやって煽るつもり? 挙句に仲良くしようよと乗っかり始めたちびテリアのラッキーに、
「うちの子に何すんのよ!」と怒鳴る始末。品がない事極まりなく、この夫婦の体型も揃ってラブラドール風なのが笑える。
「全くセロのメスなんか連れてくる奴の気がしれんね。揉め事をわざわざ作るなんて」と、オスのシュナウザー、カプリの飼い主オジサンは苦りきった顔で言うと、トラブルを避けるために早々に引き上げていきます。皆な迷惑顔なのが解らないのでした。

さてクゥニーにもシニアにもとっくにセロが来たのに、ベルったら一体いつ迄のんびりお子ちゃまを楽しんでいたいのかしら、とヤキモキしていた私たちに、待望のセロが来たのはそろそろ満9ヶ月にもなろうかという頃。晩熟ですよね。こんなにもベルのセロを気に掛けていたのには訳があります。実は9月にビセンスからも思いがけない申し出があったのです。10月30日にフランスはナントで開催されるフランス・ダル・クラブの大会と、翌31日にブルッセルで開催されるベルギー・ダル・クラブの大会に参加しないか、と言うのです。
ermita.jpg「自分達はディジーを連れて行くんだけど、ベルを出してみたいんだ。もし君たちが来られないならベルとフウを連れて行くけど、どう?」
「ナントって何処?」
「パリのちょっと下だよ。クラブ大会は毎年開催地が変わるんだ。今年はたまたま土曜がフランスの、日曜がベルギーのクラブ大会になったから、まぁ、ちょっとハードだけど、良いチャンスだしね。クラブ大会だから100匹くらいのダルが集まるんだ、スゴイ見ものだぞ。良い犬を出来るだけ多く見ておくことが重要なんだよ。フランスではベルはスポットが多いから、あまり期待できないけど、ベルギーの今回の審査員はベルのスポットに良く似たダルを持ってるんだ、マロン(茶)だけどね。まぁ、今回ベルギーではディジーとベルのお婿候補を見るのも目的なんだよ。ディジーはもう一度掛け合わせようかと思ってるんだ。ベルはイギリスのオスと掛け合わせるのもいいかと思ったけど、イギリスは入国が面倒過ぎるからね。今度のディジーの子ではオスを残すつもりなんだよ。それとならいざという時ベルとも掛け合わせできるからね。何時も何時もはダメだけど、時々近いもの同士を掛け合わせて血を守るのも大事な事だから」
「ベルのお婿さん、見つけてきて上げるからね。絶対美男犬じゃなきゃ!」と、盛り上がってるベジェスたち。何だかすっかりプログラムされてるのでした。

 しかし、フランス・ベルギーの大会? 夢のような話です。ちょうど11月1日が「全聖人の祝日」と言う、日本で言うならさしずめお盆でしょうか、亡くなった人を偲ぶ日なのです。全聖人とは、カトリック信者が圧倒的に多いこの国では、自分の生まれた誕生日とは別に自分の守護聖人を祝う仕来たりがあり、ほぼ毎日に色々な聖人の名が付けられているのですが、とても365日では足りず、残りの聖人全てひっくるめてお祝い、お祀りする日がこの「全聖人の日」。ちょうど金曜から連休になるので学校は金曜だけ休めば良い、と言うのです。ちょっと人見知りな息子がうんと言うかどうか。まず無理だろうな、と早速側にいたフウにどうする?と尋ねると、
「うん。行く」と、あまりの即答にこちらは拍子抜けしたくらい、あっさりと言うではありませんか。
「お父さんもお母さんも行けないのよ、良いのね?」
「うん」
「ビセンス、フウが行くって。でもね、心配なのはベルのセロがまだ来ない事なのよ」
「う~ん、メスはその問題があるからなぁ。まぁ、ぎりぎりまで待ってみよう。もう来ると思うしね」

 こう言う事もあって、私たちはベルのセロを首を長くして待っていたのです。セロの3週間、一日でも引っかかる様なら出場を見合わせなくてはなりません。ハラハラドキドキで待ちかねたセロ、計算すると何と始まった日からちょうど3週間明けの翌日が10月30日。運が強い、と言うべきか。これでベルのフランス、ベルギー行きが決定したのでした。
 それにしても、あのはにかみ屋の我が息子が家族以外の人たちとの旅行を、あんなにもすんなり承諾するなんて。むろんベジェスを家族同様に信頼していると言う事なのでしょうが、それとベルを誇りに思う気持ちが強いのでしょう。ダル専門家のビセンスから、「ベルはインターナショナルで充分通用する」と、太鼓判を押されたのですから。私たちは半信半疑ではありましたが、すっかり例によってお任せです。

早速、ベジェスからセロの心構えを授かります。まずダルのセロ期間は通常3週間、最初の1週目はオスが来ても怒って相手にしないから、さほど問題はない。だが2週目に入るとメスの受入体制が整うので、その時期は放さない様にする。最も妊娠の危険が高いのは中の3日ほどだが、腰のところをコチョコチョと触ると、尻尾を真横にやって受入態勢を取るようになるのが危険の印。最後の3週目は再びオスを受け付けなくなってくるが、襲われて怪我をする事もあるから充分気を付ける様に。むやみにオスとは接触させない事が肝心。散歩も短めに。
 う~む。ブバの時の教訓があるので、朝も夕方も犬友広場は避けて、森へ行きます。もし何かあったらと思うと迂闊には放せないし、緊張。今まで森で会っても「お子ちゃまか」と相手にもしなかったハスキーのトゥロンやゴルフォ、黒ラブのマックスがやたらご丁寧なご挨拶、痛み入ります。何時もならお喋りのひとつもしている所ですが、私がベルを繋いだままで放さないのを遠目で見たトゥロン夫妻、直ぐにセロだと気付いてくれてトゥロンを繋いでくれます。近づきすぎないままお互い手を振っての挨拶だけで別れます。

 さて、秋もたけなわです。ここでは日本程の目にも鮮やかな紅葉はありませんが、それでも山に行けば落葉樹が色付きしっとりと潤った気配が深まって来ます。10月12日はカタルーニャでは「聖母ピラールの祝日」、なんでも聖母マリア様が教会を建てるようにと、ブットイ柱を担いで現れたという有難いお話があって(怪奇現象とかと言ってはいけない)、聖母マリアの別名だそうですが、スペイン女性の守護聖人でもあるそうで(だから逞しいのか)、よく女性の名前にも使われます。本当はこの10月12日はスペインでは「民族の日」という祝日で、コロンブスが新大陸を発見した日、つまりスペイン王国の黄金期の幕開けを偲ぶ日なのですが、当然新大陸から見れば血塗られた略奪への幕開けの日、憎しみを掻き立てられる日でもあるわけです。新大陸から持ち込まれた富の恩恵を蒙ったのはマドリッドを中心とする旧カステリャーノ王国、そしてこの時から地中海交易で富を誇った旧バルセロナ王国の衰退が始まるのです。血塗られた富には自分達は関わっていない、と言う事をアピールしたいが為に、カタルーニャではこの日を別な聖人の日に置き換えてしまっていると言う訳。マドリッドとバルセロナは磁石の両極なのです。

そして、この祝日が今年は連休になります。このところ二年ほど続けて10月の末にある全聖人の連休にダム湖に鯉釣りに行く事にしていたのですが、今年はちょうどこの時がフランス・ベルギーに被ってしまうので、12日の連休に振り換える事にしました。今年はベルが初参加、ちょうどセロでいつもの森では少々窮屈な思いをしているベルと私たち、こんな山の中の湖にまで犬が出没する事もなさそうだし、山でも行ってのんびりしましょ。二年間ゴッスが一緒だったのに、この所ゴッスはもう私たちと旅行する事はなくなってしまいました。可哀想に。例年通り湖畔のパラドールに泊まる積りで予約を取り、いざチェックインしようとすると「犬は駄目」と言うではありませんか。じゃ、ゴッスは何だった訳? ここで夫が猛然と抗議。2年共犬はOKだったのに、どうして今年は駄目なのか、と食い下がります。では支配人に聞いてみる、というので仕方なく、時間潰しの為に湖の方へ散歩に行きます。
「駄目だったらどうする?」
「車の中でもいいだろ。ここなら取られないよ」
「ダメだったら帰ろうよ」とべそを掻きそうな息子を尻目に、折角ここまで来て引き下がるのはなぁ、と悔しげな夫。釣りもしたいしなぁ、というのもミエミエだけど。しかし暫く湖周辺で遊んだフウ、さぁフロントへ再交渉に行くぞという段になって、
「ダメだったら車の中で寝かそうよ」と言い出すではありませんか。ちょっと、あのね。開いた口が塞がらないとはこの事とですが、支配人との交渉の末OKに。無事ベルは私たちと一緒に部屋でお泊りです。
「ベル、フウが車の中で寝かそうって言ってたよ」
「うるさいなぁ、ジョーダンだよ、ジョーダン」

 サウ湖は堰止湖なので水中に古い中世期の礼拝堂が沈んでいます。水の少ない乾季にはこれが見えるのですが、通常は秋になると少し水量が増える筈なのに、今年は少ないまま秋も半ばだというのに全形が出ています。男二人が釣りをしている間、私はベルを連れて湖周辺をぶらぶら歩き。細かな細かな糖カエデのような葉が赤く色付いて、木の枝が作り出すトンネルの下は絨毯を敷き詰めた様に染まっています。一日いても釣れるのは夕まずめだけなのですが、まぁ根気良くやってる事と、遠くに見える我が夫の姿を観察。湖近くでバーベキューをして、お腹も一杯になったベルは久し振りにずっと紐なしでいられるのでご機嫌で、そのうちザブウンと水の中へ。でもさすがに冷たくて直ぐに出て来ましたが、タオルで拭いてやってもこの気温では可哀想に、震えるばかり、車の中に入れてやって暫らくフウが側にいてやります。それでも寒がるベルにフウは自分のダウンジャケットを着せてボタンまで止めてやって。フードを被せられてちょっと迷惑顔。でもベルの表情ってホントに人間的なのね。この日は例年に比べ小振りでしたが5匹の釣果で、優秀優秀。夜はホテルのバスタブに水を一杯張って泥抜きします。もちろん食べる為。洗いか丸揚げあんかけですね。でも今年は多いので、別な保存方法を考えています。つまり、この夏休みにビセンスがライムの為に作った小さなプールに冬の間放して大きくさせて食べよう、というアイデア。既に夏に彼らの承認は得てあるので、釣り上げた鯉を持って早速ベジェスの家に立ち寄る事に。
 しかしこれ、アイデアは抜群だったのに、生簀(もう生簀扱い)に入れた鯉はどうやら猫かダルたちにやられてしまったらしく、春を待たずに1匹また1匹と姿を消したのでした。でもこのプール、その後は金魚と水生植物の為の池へと変身してしまったので、また何時か釣った鯉を放そうかな。

chaqueta.jpgさて、山から帰ってくるとベルはセロ2週目に入り様子が変わってきました。そしてこの頃から大変な事に、ストーカーが出没。またこのストーカーたるや見るからに冴えない中年オジン風で、しつこいだけが取り柄(そんなの、取り柄といえるのか?)で、どうやら毎朝飼い主が「あんた散歩に行って来なさい」と、単身放り出すみたいなのです。最も危険な2週目だと言うのに、毎日森の中で待ちかねていて、その現れ方や神出鬼没。昨日はあちらの森、今日はこちらの麦畑と、その行動範囲たるや恐るべし! また、ベルもベルです。2週目も後半になると梃子でも動かぬ構えで相手が来るのを待つ色気づき方。ベジェスに教わった通り腰の所をコチョコチョとやると、尻尾を真横にぴんと張っています。幾らなんでもこんなオジンに可愛い娘を渡す訳には行かぬと、夫がオジン犬を追い払う事、鬼気迫るものがあるのですが、それでもひょいと隠れまた現れ、の繰り返し。終いには家のガレージにまで付いて来て一緒に中に入ろうとするではないの! こうなれば我が子可愛さ、怒り心頭、蹴散らさんばかりの勢いで対応するしかありません。でも家を突き止められて、不安は募る一方。夕方の散歩も極力短くしますが、もしものことを考えるとフウには行かせられないので、私たちが受け持つ事になり、3週間のセロは如何にも長く感じられるのでした。 

ですが猫の発情と違って、犬は出血こそしますが夜昼なくうるさく泣く事もなく、家のなかではごく普通に過ごしています。出血はひとつの問題ですが、床は全てフローリングですし、ベッドやソファにカバーを掛けておけばさほどの問題ではありません。確かにモップで拭いて回らなくてはならず大変な面もありますが、畳ではなく拭けばお終い。日本では家の中で犬が飼いにくい理由もここにあるのかなぁ、と思い至ります。パンツを穿かせると言う策があるそうよ、と友人が教えてくれましたが、どうせ噛み切るに決まっているし、そういう姿を見る方が不快そうなので、このまま自然体で。
 それに、この所フェリックスをなくして未亡人となったキキの発情すざましいものがあり、「女の業じゃ」などと笑って済まされるものではなくなってきて、二週間置きの様に大騒ぎ。2,3日で終わってしまうのですが、九歳という年齢を考えればもうそろそろ枯れてきてもいいのでは? 猫の発情中の声ほど怨念的なものはなく、キキは「輝姫」のつもりだったのに、これではすっかり「鬼気」に成り果ててしまったみたい。それに比べればベルのセロなんて3週間の散歩に気を配ればいいだけです。しかも年に1回か2回だけですもの。

セロの間は夕方も広場には行かずぶらぶら歩きの散歩に変え、何時もは行かないランブラ・デ・セジェールの遊歩道を歩いて、その先にある広場に向かっていた時、向こうに2匹、白黒のダルっぽい姿が見えました。近づいて行くと、そうダルです。1匹は小さめでクゥニータイプですが、スポットの様子からしてクゥニーではない様ですし、もう1匹は太っていますがスポットの具合がベルに少し似ている所もあって。ベルはダルを見つけて大喜びで尻尾を振っています。50 歳くらいの女性がニコニコ笑いながら、
「あら、もしかしてこの子がベル?」と、声を掛けてくれました。
「生まれた時に見に行ったのよ、私たち。サン・クガットに来るって言うから何時か会えるだろうって、楽しみにしていたの。この子はエレナ。やっぱりベジェスのとこの血を引いてるの。ほら、おでこにスポットがあるでしょ、ベルと似た?」
「あら、ホント」
「あぁ、やっぱりベジェスの所のだから大きいね」と、やはり60台前半の別な夫婦のおじさんが言います。彼のはクゥニータイプなのです。この人たちが老衰で死んだリブラ・カサノバのダルの後に、待ちきれずフランスから仔犬を買った為、その空きが私たちに回ってきたと言う、思えば我が家にベルが来るようになった最大の功労者(?)とも言える人たちだったのです。
「やっぱりエキスポジションに出してるのかい? うちも前には何度も出していたんだけど、あんなのはやっぱり素人には勝てない様になってるんだよね、プロが勝つばっかりで。それに金も掛かるしね。ペットでいいんだよ、うちの子は。まぁ、ちょっと太ってるがね」と、ベルを手に入れ損ねたおじさんがちょっと悔し気に見えるのは、気のせい? 今にして思えば神谷さんが見かけた仔犬のダルがこの「オナ」だったのです。オナは小柄でスポットは流れ気味。全体のバランスも良くありません。エレナは割に大柄な方でスポットがくっきりして配合も悪くはないのですが、いかんせん太らせ過ぎ。とても幅が広く、そして背中が異常に平たい。まるで荷台を乗せるインド象のような背中をしていて、太っているせいか股が開いた歩き方なのです。しかし3匹のダルが仲良く遊んでいるのは、やはりかなりインパクトある光景なのか足を止めて見ていく人もいます。通り掛かりの子供達も大喜び。大体ダルを見ると子供達は嬉しくなって、「ポンゴ!」と叫んでいます。中には「触ってもいい?」「噛まない?」と声を掛けてくる子達も。
「噛まないわ。撫でてあげると喜ぶわよ」と許可すると嬉しそうに頭を撫でたりして、むろん許可がない限りむやみと触ってはいけない、と躾られています。
「尻尾や口をいきなり触っちゃダメよ」と、ちゃんと教えるお母さんもいますし、犬が人間の暮らしの中に溶け込んでいるのです。ベジェスたちも常々、「社交的になるように躾るのが大事。そうすればダルがもっとよく知られるようになるしね」と、言っています。人も犬も無駄吠えせず社交的に過ごすべし、なのです。

 このサン・クガットの2匹のダルに遭遇した時の事を話すと、
「何度もなんか出してやいないぞ。一回だけだよ、それでお終い。そう言うものなんだよ。なかなか続けられるものじゃないんだ」と、ビセンス。
「大概、みんな1回は来るけどね、それ以上は続かないね」
「まぁ、分るけどね、気持ちは。勝てないし、金も掛かるし、時間も取られる。訓練もしなくちゃならない。まぁ、家族として可愛がってもらう事が一番大事な事なんだから、無理しなくてもいいのさ」と、今までに何度もそう言う経験をしてきたらしい彼らは肩を竦めるのでした。

セロ中のストーカーに悩んだ顛末を話すとビセンスが、
「ちょっと離れた所まで車で出した方がいいよ、今度から。家の近くでおしっこをして名刺をばら撒くから寄って来るんだよ」
「そうそう、沢山ばら撒くぞ」と、マニュエルがにやにや。
 なるほど、名刺をばら撒くとは言い得て妙。だから数滴ずつとでも言いたいようなおしっこを際限なく繰り返す訳ですね。ま、散々ばら撒いた名刺も効無く、ベルは初めてのセロを終えようとしており、ちょっと大人びた様な。気のせい?

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