尿道結石


尿道結石はダルに特異的な疾患といわれている。尿道結石の発症に関係の深いプリン体と尿酸について調べてみた。

プリン体とは


「プリン体」とは細胞の中の核酸を構成する成分で、核酸は遺伝に関わる物質であり、あらゆる生物の細胞に含まれている。人体はもちろん、ほとんど全ての食品に含まれ、細胞数の多い食品ほど、プリン体の含有量が多いと言える。ちなみに「プリン」の語源はラテン語「プリンヌクレオチド」 プリン体が体内で分解されると、老廃物として「尿酸」が生じる。結石の原因として尿酸が問題とされる為、プリン体は良くない物質と思われがちだが、実は生物の体を作る細胞にとっては、不可欠の物質であり、重要な働きをしている。故に、体内でプリン体の濃度を一定に保つ機能があるが、増えすぎると腎臓でのろ過が間に合わず、バランスが狂うと血液中の尿酸濃度が高くなり過ぎ、いろいろなトラブルを引き起こすことになる。

尿酸とは


プリン体の老廃物「尿酸」を体内から排出するために、哺乳類の多く(他犬種はこれに含まれる)は、尿酸を分解する酵素(ウリカーゼ)を持ち、尿酸を水に溶けやすいアラントインに変化させ、尿中に排出する。ところが人間を含めた霊長類の一グループとダルは、ウリカーゼを進化の過程で無くしてしまい持っていない為に、プリン体の老廃物を尿酸の形のままで体外に排出しなければならない。尿酸は体外へ排出される時、約2/3が腎臓から尿中に排出される。腎臓には尿中の尿酸濃度が濃くなり過ぎないように、少しずつ尿酸を排泄する調整機能があるが、後天的な要因が大きくなると、その機能では賄う事が出来なくなり、尿酸が多く尿中へ排出されてしまう。しかし尿酸は水に溶けにくい物質なので、尿の中で高濃度で存在すると結晶を作り、結石となってしまう。体内でプリン体、および尿酸の異常が起きると、さらにこの傾向は強まる。
これらの理由で、ダルは人間と同じように高尿酸血症(痛風の予備軍)-高尿酸尿症-尿路結石を発症する。人間の通風とよく似た関節痛を発症するダルもいるそうである。人族は尿酸の形でのプリン体老廃物の排出を行うが、尿酸排出の形をとらない犬族の中で、ダルのみが尿酸排出を行う。つまり犬族のプリン体老廃物の排出方法と異なる方法を取るダルの方が、人間以上に尿酸によるトラブルが発生しやすい、と考えられる。

なぜ尿酸結石がダルには出来易いか。


尿は腎臓-尿管-膀胱-尿道-体外へと排出される。この過程で結石が出来てくるのだが、一般に問題となっているのは、膀胱内の結石による尿閉である。犬族は本来は結石ができにくい体質なので、進化の過程で結石が排出され易い体の構造になっていない。ダルでもメスは排尿時に一回で大部分の膀胱内の尿を勢い良く排出し、尿道も短く尿線も太い為、結石の多くは小さいうちに尿と共に体外へ排出されると考えられる。
しかしオスは、マーキングの為に膀胱内に尿を貯め、小出しにしながら排尿する(尿量をコントロールする)為に、、尿道は長く、尿を出したり止めたりする筋肉が強く、尿道も細い為に、膀胱内の結石が排出されにくく、膀胱内に溜まった結石は、それ自体が核となって周囲の尿中の尿酸を周りにつけながら大きくなって行く。そして排出できない結石が膀胱内に多数存在すると、尿道を閉鎖してしまい、尿閉が発症する。この状態に気付かないでいると、尿が出ない為に、膀胱拡張-尿管拡張-腎盂拡張-腎機能障害となり、死に至る事もある。

予防と早期発見


かつてダルは馬車の伴走犬だった為、他の犬種と異なり日常的に長時間走っていたので、多くの水分を摂取していた。この為、尿中の尿酸濃度は薄まり、また仕事中にマーキングする余裕はなかった為、一気に排尿していたので、小さな結石は尿と一緒に排出されたと考えられる。だが、生活の変化により運動量の減少と、食生活の変化による高タンパク質化により、危険が増したといえる。
誰にでもできる予防としては、まず仔犬を買う際に、血統的にこの病気にかかりやすい家系かどうか確認しておくことが大事である。しっかりとしたブリーダーから買い求め、食事管理をし、プリン体の多いものを控える、高たんぱく質のものを与えすぎない。正しい量、高品質の食事を与える。過食させて太らせない。また尿pHが酸性に傾いている血統では、更に結石が出来やすくなるので、定期的に獣医のところで尿検査をしてもらい、尿のPHをチェックし、尿中に砂上の結石がないか調べる、などである。特に仔犬の成長期に結石が見られやすいので、この時期に検査しておくと、その後の傾向がつかみ易い。もっとも大事なのは、適度な運動の習慣により排尿を促す事と、食事の管理である。
尿酸が知的機能の発達に深く関与している可能性について
人間を含めた霊長類のあるグループでは、尿酸を分解し最終代謝産物としての尿素を生成する酵素であるウリカーゼが、数百万年前に突然変異で失活した為に、尿酸の血中濃度が、その他の生物に比べて高値である。尿酸の血中濃度が上昇した結果、その何らかの作用により、中枢神経系(特に大脳)の機能が発達し、知的能力の進化が促進されてきた可能性がある、という研究報告がある。ダルは先に述べた通り、犬族で唯一尿中に尿酸を排出する犬種である。という事は、人間と同じく突然変異によりウリカーゼを失活したダルメシアンもまた、大脳機能が他の犬種より発達し、知的能力が進んでいる、と言えはしないだろうか? ダルが示す独特な表情の豊かさは、その証なのではあるまいか。