ブリーディング


犬種向上の為に、私が最も重要だと考えているのがブリーディングです。スタンダードの項目をお読み頂けばお判りのように、私は全てのダルをスタンダードにすることが犬種向上の目的だとは思っていません。ご存知のようにパッチ、目の色の違い、聴覚問題など、ダルはブリーディングのリスクが高い犬種です。スタンダードという枠から外れる子はたくさんいます。でもそう言った仔もみんな愛すべきダルなのです。では愛すべき家族として、一番求められるものは何か。それは穏やかな性格と、そして健康ではないでしょうか。私は健康で穏やかな性格を生み出す事が、ダルの犬種向上の最たる目的だと考えています。

我が家のブリーディングの話も交えて、現在ヨーロッパでしっかりとしたブリーダーの管理下で行われているブリーディングの事に触れたいと思います。

良いブリーダーと呼ばれる方たちが育てているダルは、家族としてのびのびと育ち穏やかな性格をしています。彼らはショーに出し研鑚していく事で、更に良い犬種を産もうと考え努力している人たちです。相手を選ぶ為には5代前までの血統を調べると言います。5代の間は隔世遺伝として出てくる可能性があるからだそうです。しっかりしたブリーダーならそのくらい前までの血統図は持っていますし、求められたら開示してくれます。最もショウに出している人たちの間であれば、ほとんどの流れはある程度簡単に判るようです。リスクを避ける為に、近親同士の賭けあわせが頻繁に行われてはいないかもチェックします。何代目かには近しい血を入れ血統の修正を行う事もあります。

ブリーディングはあくまでもメスが主体であり、メスのブリーダーの指揮下で行われます。そして良いメスを育てていればオスを選ぶ事ができます。ですから良いメスを育てる事がブリーダーにとっては非常に大事なことであり、故に自分のメスの仔犬を外へ出す際には、貰い手選びに非常に慎重になります。プロの繁殖家には手渡したくないのです。

オスも良いオスであれば、ある程度相手のメスを選びます。しかし本来オスは自分の血を広めた方が良いと考えられているので、それなりに釣り合う相手であればメスからの申し出を拒む事はあまりありません。ブリーディングは常にメスがオスの元に出向いて行われます。最も確立の高い日を検査し、それに合わせて移動します。オスのテリトリーの下、オスはのびのびとメスの相手をするのです。オスがメスのところへ行くのは非常に異例の事です。

ブリーディングは無論オーナー同士の信頼がなくてはなりません。信頼に値しないオーナーとの掛け合わせは、相手のダルがどんなに良くても避けた方が懸命な場合があります。後々オーナー間のトラブルを生む事に繋がるからです。

メスは掛け合わせる権利は2回、1日に1回しか掛け合わせをしてはいけない事になっています。2日置いてもう一度掛け合わせをする権利がありますが、放棄する事も出来ます。もし妊娠しなかったら次のヒート時に、もう一度掛け合わせが出来る権利もあります。

掛け合わせはメスからの依頼であり、メスがオスに掛け合わせ料を払います。金額の代わりに仔犬を1匹貰うという契約の場合もあります。オスがメスに支払うものではありません。1度目の掛け合わせが終了した時点で支払われます。

我が家の場合、オスはオランダ生まれのフランス育ちのため、オランダ、フランス両国の血統書番号を保持しており、スペイン・ケンネルクラブはその証明書も求めました。海外で掛け合わせた場合、オスの在住国のケンネルクラブが発行する掛け合わせ証明書にオス、メスのオーナーがサインをし、それをメスの在住国のケンネルクラブに提出します。

出産が無事に終わったら、メスはオスのオーナーに報告をします。何匹生まれたか、オスメスの数、パッチが出たかなど、これは出産直後に報告します。その後6週以降に聴覚障害が出た場合などは、随時報告をします。その後の貰われ先などの報告などもする場合があります。メスの側はオス側からインフォメーションを求められたら、速やかに対応しなくてはなりません。

次にケンネル・クラブに行き血統書番号発行の手続きを行います。両親がCHの称号を持つ場合はそのコピー、血統書のコピー、掛け合わせ証明書オリジナルを添え、何頭生まれたかを仮申請します。2ヶ月ほどすると仮申請が認可され、正式な申請書類が1匹ずつ出ます。この書類にそれぞれのマイクロチップ番号のバーコードを添付し、施術した獣医師の住所、名前、獣医師認定番号、署名、そしてブリーダーとオーナーの名前、住所、身分証明書番号、署名をして、それを再度ケンネル・クラブに提出し、本申請になります。正式な家系図の入った血統書が欲しい場合はその旨申請します。ペット・ショップに出される仔犬の場合、まだオーナーが決まっていない段階で本申請するので、買った後にオーナーがケンネル・クラブに再申請しないと正式な家系図入りの血統書は発行されません。

無論、この際にスタンダードに置ける欠点を持つ仔犬に関しては、血統書本申請を取り止めます。ただ耳が聞こえるかどうかの判定は少なくとも6週以降に入らないと確定は出来ないので、ペット・ショップに出る仔犬は、ほとんどチェックなしで生まれた頭数だけ血統書が発行されるのがほとんどです。残念ながら、ひたすらブリーダーの良心に期待するしかないのが現状です。

ヨーロッパ諸国の多くで、ブリーディングの為には「聴覚検査証明書」を求めるようになってきました。これは主にその国のダル・クラブが管轄しており、中には「股関節のレントゲン証明書」も求める国があります。我が家もオランダ、ノルウェー両国のオーナーを持つダルとのブリーディングを予定していたので、オスのオーナーからこの2つの証明書を求められました。無論オスの方も提示が必要です。これらは全て、不幸なブリーディングを未然に防ごうという思いからであり、クラブがしっかりしているが故と言えるでしょう。ですから、ダル・クラブの会員の下で行われたブリーディングに対する信用が生まれる訳です。イギリスのBDCでは会員に対し、生まれてきた仔犬全ての聴覚検査を義務付けており、その統計が毎年会報に発表されます。それだけの予防をしていても、聴覚障害を持つ仔が生まれてくるのです。ダル故の問題であり、如何に減少させるかは私たちブリーダーの、一人一人の誠意と努力に掛かっているのです。

さて、ここまではざっと簡単に一般的な仕組みを書いてきました。次はスペインのクラブでの指導要綱に付いて書きたいと思います。これはBDC(British Dalmatian Club) に準じています。
スペインのクラブでは会員への指導要綱を作成する際に、ブリーダー、ハンドラー、審査員、オーナーの4つに分け、それぞれの指針を打ち出しました。

ブリーダー


まず最も重要なのがブリーダーです。なぜならその手に犬種の未来が握られているからです。メスのダルを持ち、ブリーディングを考えている方は、自分の手の中にダルの将来が掛かっていると言う思いを、ぜひ噛み締めて頂きたいと思います。ブリーディングは安易に行うべきものでありません。生まれてくる仔犬たち全てに良い食事と十分な運動、そして健全で幸福な暮らしが確保できるかどうか、条件を検討してください。
基本的なチェック事項としては、

あなたのメスは繁殖の為に必要な犬種独自の特徴を十分に備えていますか?
オス、メス共に遺伝的欠陥を持っていませんか?
繁殖の為のオスとその血統について、細かく検討しましたか? ラインを決めるための基本です。
オス、メス共に素晴らしい健康を保持していますか? 攻撃的、あるいは神経質な犬はいかなる犬種と言えども、繁殖に使用してはいけません。
正しく幸福な繁殖であるために、費用や移動に関する注意、時期など、経験豊かなブリーダーの指示を仰ぎましょう。

以下の基準を守る事が重要です。

2歳以下8歳以上のメスは繁殖に使用してはなりません。

メスは3回以上繁殖に使用しないことが望ましいでしょう。もしくは最高4回までとします。

2度続けてのヒートでの繁殖は行わないこと、また中断されたヒートは獣医の判断を仰ぎ繁殖を避けましょう。

全く耳が聞こえないと診断された仔は、処分しなくてはならないでしょう。


オスの飼い主に対して

あなたのオスは犬種としての独自の特徴をちゃんと保持していますか?

メスの飼い主と共に、先に書いた基準を全て確認しましたか?

ケンネル ・クラブにちゃんと登録されているメスか確認しましょう。

もし可能ならオスの飼い主はメスの元を訪問し、出産が正しく行 なわれるかコントロールしましょう。相手が経験の浅い飼い主場合、常に援助し助言を与えましょう。


仔犬が生まれてきたら遺伝的欠陥がないかどうか、よく確認しましょう。父親と母親の血統ラインを受け継ぐのですから、オス、メス双方の飼い主の果たす責任は大きいものがあります。 

と、私たちの指導要綱には記載されています。さらに18ヶ月以下のオスは繁殖に使用してはいけないという 意見もあります。

まず繁殖を考えておられるメスの飼い主の方に、
なぜ繁殖をしたいのか?
繁殖の為の設備、条件は整っているか?
もし必要となった場合、仔犬を処分する事ができるか?

の3点を自問して頂きたいのです。私もこの3点をよくよく検討しました、特に3つ目の条件については非常に悩みました。可愛い盛りの仔犬を処分出来るだけの強さが自分にあるだろうか、犬種向上を考えれば、そしてその後の困難さを思えば、耳の全く聞こえない仔は自分で育てられない以上、現状では処分するしかありません。ベジェス家にも1匹、全く聞こえない仔がいますが、広大な敷地内で家族のダルと暮らしているので問題はさほどはありません。彼らも過去に何頭か処分した事があります。ブリーダーとしての自負があれば、自分たちの手で守らねばならないルールがあるのです。 人道主義的な発言をされる方もおられますが、ブリーダーとして不幸なダルを少しでも減らすという思いを持つならば、時には冷徹で明晰な精神で望まなければならない事もある、と私は考えています。

イギリスのダル専門書には以下のような記述があります。


「もしあなたが自分のメスでのブリーディングを考えているのなら、良い血統を探しなさい。別段ショウで活躍しているトップクラスのメスである必要はありません。しかし、もし次のような欠陥があるメスは繁殖をさせてはいけません。すなわち、

攻撃的であったり神経質な性格。

全く耳が聞こえないか、片方だけ聞こえない。

パッチがある。

何かしらの病気がある。

スポットが黒と茶以外のカラー。

ブルーアイ。


最後に一言。仔犬を処分しなくてはならない場合があります。それは産まれて間もなくだったり、もしくは5,6週間してからだったりします。誰にとっても愉快な事ではありませんが、ダルメシアンの繁殖には必要な事なのです。もしあなたが自分はそれだけの責任を持てないと思うのなら、ダルメシアンのブリーディングに従事してはなりません」

お解りのように、ブリーディングというのは正にブリーダーの人間としての品性をも問われるものなのです。自分の犬を正しく判断し、理解する事がまず犬種向上の第一歩なのではないでしょうか。欠点に目を背け、ただ我が子可愛さのようなブリーディングは行うべきではありません。あなたは自分のダルがどういう条件下に於いて生まれてきたのか把握していますか? 父親犬や母親犬をしっかり把握していますか? あなたのブリーダーは母親犬の情報をくれましたか? 母親犬に会った事がありますか? 悪質なブリーダーをコントロールしていくのも、ダルの飼い主として大切な役割ではないでしょうか。